悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
 これまではカルミアが一人でメニューを考えていたのだが、一人で考えていると前世の食生活が影響してしまうのだ。すなわち米を主体に考え過ぎてしまう。
 新しい意見を求めていたカルミアは、ためしに同僚たちに相談を持ち掛けたというわけである。しかしメニュー会議は難航していた。

「やっぱり食べたいものって人それぞれよね。好きな物も人によって違うし……そうだ! 私、ちょっと校内で聞き込みをしてこようと思うの」

「聞き込みですか?」

 ロシュの瞳が興味深そうに訊ねている。

「みんなに直接食べたいものを聞いてみるわ」

 カルミアの意見にドローナも身を乗り出して賛成する。

「それは良い考えだと思うわ。私も授業のついでに聞いてあげる。きっとスイーツが食べたいって意見がたくさん出るはずよ!」

「あたしもよおく耳を澄ませておくさ」

 まるでドローナに対抗するようにベルネも身を乗り出してくる。バチバチと火花さえ散っており、二人とも頼もしいとカルミアは感謝を告げておいた。

「だからカルミア、貴女がわざわざ校内を歩き回る必要はないのよ? カルミアは私たちのボスなんだから、ドンと構えていなさいよ」

「確かに丼ぶりものはボリュームもあっていいですよね」

「は?」

 思いがけずドローナの発言からアイディアをもらったカルミアである。
 わけがわからないと顔を顰めるドローナの提案はカルミアを心配してのことだろう。しかしカルミアには自ら校内を歩いて回りたい理由があるのだ。

「息抜きも兼ねていますから、気にしないで下さい。それに学食に来ない人や、ドローナの生徒以外にも聞いてみたいんです。たとえば学食に来たことがない人や、食文化の違う人。食べたい物がないから行かない、なんて言われたら悲しいですから」
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