悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
 会議の日取りを聞いてから、決戦の日が来るのは早かった。
 学食の勤務を終えたカルミアは、会議の前に教師たち全員と個人的に挨拶を交わす。

「学食で働かせていただいています。カルミアと申します」

 カルミアがそう挨拶をすれば、たいていの人間はカレーが美味しかったと友好的に接してくれる。
 中にはどうして学食の人間がいるのかと不審な眼差しも混ざっていたが、決して悪意と呼べるほどのものではなかった。

 会議は円滑に進行し、そして終了する。

 何事も問題は無く。

 円滑にである。

(満場一致で学食の費用を増やしてもらえるのは嬉しいんだけど、私が徹夜で作った学食予算の必要性資料が活躍する隙もなかった……)

 頭の固い大人たちを納得させるための資料を用意していたのだが。

(みんな物わかり良すぎ! 学食どころか、学園運営に関する不満もないじゃない!)

 リシャールの意見に反論をする人間さえいないのはどういうことだ。
 今回の成果といえば、すべての教師と面識を持てたことだろう。直接話せたことで印象が変わることもある。しかし怪しい人物がいなさすぎるというのは困りものだ。
 会議から解放されたカルミアは拭えない疲れを引きずりながら寮へ戻ろうとしていた。ところがオランヌに腕を掴まれたことで阻止されてしまう。

「ちょっと、どこ行こうとしてるの!? ほら、カルミアも行くわよ!」

「へ? あの、行くってどこへ!?」

「飲み会に決まってるでしょ!」

 会議のあとは職員たちの懇親会が開かれるらしい。そういうところは前世に近いものを感じるが……

「私も!?」
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