悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「天気も良いし、ピクニックでもしようかなって、お弁当を作って来たの。二人は!?」

 早急に話題を逸らし、逃げ切るのが得策だろう。
 カルミアの疑問にはオズが答えてくれた。

「オランヌ先生に休日返上で仕事を手伝わされてたんだよ」

「ありがとねー。またお願い」

 疲弊するオズは苦い笑いを零すのみだ。そんなオズを鼓舞するようにオランヌは高らかに宣言する。

「お礼になんでも好きな物食べさせてあげるわよ! そうだ。これから食事に行くんだけど、カルミアも行かない?」

「私は……」

 カルミアは手にしていたバスケットを握りしめる。自分ひとりで食べきるよりも、誰かに食べてもらえた方が供養にもなるだろう。

「良かったら、これを一緒に食べてくれない?」

 そう告げた瞬間、オランヌの目がきらりと光った。

「いいの!?」

 オズも負けじと手を上げる。

「俺も俺も! カルミアの料理、好きなんだ。なんならこれから三人でピクニックなんてどうだろう」

「それいいわね!」

 オズの思い付きから中庭に移動し、三人でテーブルを囲んで食事をすることになった。とっさに出た言い訳ではあるが、結果としては良かったのかもしれない。

「凄いじゃない、随分気合の入ったお弁当ね。あ、卵焼き! いただきまーす」

 オランヌはまず卵焼きに手を伸ばす。卵を三個ほど使ったボリュームたっぷりの卵焼きは、リシャールの好みがわからなかったため塩と砂糖の無難な味付けとなっている。

「さすがカルミア。美味しいわ!」

「じゃあ俺は、から揚げを貰おうかな」

 衣サクサクのから揚げはカルミアの好物でもあり自信作だ。

「うん。美味い」

「良かった!」

(でも私は……)

 笑顔で答えつつも、本当は別のことを思う自分がいた。
 みんなが褒めてくれるのに、何かが足りないと感じている。

(私、いつのまにかリシャールさんに美味しいと言ってもらえることが楽しみになっていたのね)

 一番美味しいと言ってほしい人に拒絶されたことが苦しくてたまらない。
 これまで料理をする時は、かつて不出来な物を食べさせてしまったあの子のことを考えていたのに。それはいつしかリシャールの姿へと代わっていたことに気付かされる。
 そんなカルミアの偽りは見透かされていた。
< 133 / 204 >

この作品をシェア

pagetop