悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「良くないわよ」

 オランヌはカルミアの言葉を否定する。唇を尖らせ、不満そうに言った。

「ちょっとカルミア。美味しい料理を囲んでるわりに表情暗くない?」

「そんなこと……」

 違うと言えば、オズからも追撃された。

「先生もそう思いますか? ですよね。いつものカルミアとなんか違うなって、俺も思ってたところ」

「そう、かな……」

 カルミアの視線が下がる一方でオズとオランヌは顔を見合わせている。
 やがてオランヌは神妙な顔つきで核心へと迫った。

「成程、リシャールか」

 意中の人物の名が飛び出したことでカルミアは驚きに顔を上げる。その先でオランヌは満足そうに唇を吊り上げていた。

「ちょっと話してごらんなさいよ。これでもあいつの友達なんだから、何かあるなら相談にのるわ」

「俺も君の力になりたいと思う。悩み事があるのなら話してほしいな」

 この二人はリシャールにとって疑わしい人物なのかもしれない。けれどカルミアにとっては信頼のおける人物だと思えた。

「リシャールさん、ちゃんとご飯を食べているのかなって」

「リシャール? リシャールなら、出張から戻って来たはずだけど」

「うん。それでお弁当を届けに行ったんだけど、食事はいらないって」

「はあ!? 何よそれ! あたしちょっと殴りに行ってくる!」

 席を立つオランヌは放っておけば本当にやりかねないと、カルミアは全力で押し留めていた。

「だめよオランヌ! リシャールさん忙しいみたいだから! それに乱暴は良くないわ。私のタイミングが悪かったの!」

「止めないでカルミア!」

「もちろん止めるわよ! オズ、オランヌを止めるの手伝って!」

「いやいや。俺はオランヌ先生を支持するよ。カルミアの料理を無下にするような行為は見過ごせない」

「オズ!?」

「よく言ったわ。一緒に殴り込みね!」

「はい、先生!」

「待って待って! 本当にいいの。私、気にしてないから!」

「嘘つくんじゃないわよ」

 オランヌは憤りを抑えてカルミアの瞳を覗く。そして頬に手を当てると、優しく語りかけた。

「そんなに悲しそうな顔して、大丈夫なわけないでしょ」
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