悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
 学食の営業が始まるとカルミアは不安を隠していつも通りに振る舞う。ロシュやドローナには気にする必要はないと告げ、校長先生に相談してみると励ました。
 手紙やメニューのこともあり、何らかの攻撃があるかもしれないと警戒していたが、無事に営業を終えることが出来たのは幸いだ。
 やがて外に騒がしさを感じると、オズとオランヌに両脇を固められたリシャールが引きずられるようしてやってくる。

「どこへ連れて行くのかと思えば……。食事は不要と言ったはずですが」

「不要なわけないでしょう! まったく、最近はカルミアのおかげで安心してたのに目を放したらこれよ。ロシュ、席借りるわね」

「はーい!」

 すでに事情は説明してあるのか、ロシュは何の疑問も抱かずに頷く。それどころかカルミアの側へとやってきては小さく囁いた。

「良かったですね、カルミアさん」

「ロシュ?」

「校長先生が来てくれて、カルミアさん嬉しそうです。きっと話したいこともあるんですよね。あとは僕らに任せて、今日はのんびりして下さい」

「え、ちょっと!?」

 背中を押されたカルミアは、厨房の方からも戻ってくるなと追い出されてしまった。
 ドローナとベルネからも送り出されたカルミアは覚悟を決めてリシャールの元へ向かう。

「はい。ここ座って」

 オランヌによって強引に席に座らされたリシャールは不機嫌そうだ。
 そんなオランヌたちは仕事は終えたとばかりに学食から出て行こうとする。

「オランヌたちは一緒に座らないの!?」

「悪いけどあたしたち、もう食べちゃったのよねー」

「いてくれるだけでいいから!」

 逃がすまいとカルミアが叫べば、オズが難しい顔をして答えた。

「ごめん、カルミア。これから先生には授業の質問をさせてもらう約束なんだ。ですよね、先生」

「え? あ! ああ、あれね。いいわよ。そういうことにしておきましょう」

「そういうことって言った!?」

「邪魔者は退散するって言ったのよ!」

 取って付けたようないいわけである。華麗なウインクを披露されたところでちっともときめはしなかった。
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