悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
(美味しくないならもっと頑張りなさいよ。いつかリシャールさんに心から美味しいと言ってもらえるまで何度でも。それに、こんな風に急にクビなんて理不尽よね?)

 心が立ち直れば理不尽さにも思うところが湧き上がる。それを思い出させてくれたのはこの優しい精霊たちだ。

(そうよね。リシャールさんには認めてもらえなかったけど、みんなが美味しいと言ってくれた気持ちを疑っちゃいけない。お父様にお母様、リデロだって。船のみんなも、ロシュにオランヌ。オズや、この学園のみんなが美味しいと言ってくれた。ベルネさんも、ドローナもね!)

 賑わいに溢れた学食がカルミアの力を物語る。
 カルミアは厨房を見渡すと、大きく空気を吸い込んだ。

「ご心配をおかけしました。明日も、よろしくお願いします」

「なんだい急に改まって」

 しかし言葉とは裏腹にベルネは嬉しそうである。

「明日からのこと、リシャールさんに掛け合ってみます。私たちは対等に関係を結んだんですよ。それなのに急にクビだなんて理不尽すぎませんか?」

「それで?」

「私、諦めません。もう少しここで働かせてもらえるように交渉してみます。それが難しかったとしても、相談役くらいにはなってみせますから」

 カルミアは繋がれていたドローナの手を握り返す。

「心配かけてごめんね、ドローナ。私、これから先のことを考えてみる。どうしたらここにいられるか、最後まで諦めない。泣いてるだけの私なんて、カルミア・ラクレットじゃないもの」

「カルミア……」

 今度はドローナが泣きそうに顔を歪めた。

「ええ、そうよ。そうよね! ベルネに同意するのは癪だけど、自信満々に私に迫ったカルミアはどこに行っちゃたのかなって心配してた。私が惚れたカルミアは、あのカルミアだったのになーって!」

 縋るように抱き着くドローナは、まるで子どものようにカルミアの瞳に映った。

「なんだい。情けない顔をして」

 ベルネが冷やかすように声をかけようと腕の力が強くなるだけだ。しかし彼女もカルミアの復活を喜んでいることはぶっきらぼうな言葉からも表れていた。

「さすがはあたしの見込んだ人間だ。ここで泣き帰るような奴を、あたしは最初から認めたりしない。あたしに喧嘩を売るような奴が大人しく泣き寝入りなんて真似、するはずがないね」
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