悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「ああもうなんなの!? どうしちゃったのよ、あの人! ねえ信じてカルミア。あの人、本当にカルミアの料理を楽しみにしていたの。こないだだって、カルミアからもらった飴を大事そうに食べてたんだから! 本当に本当なのよ!」

「飴を?」

「ええ!」

 オランヌは力強く肯定するが、カルミアには覚えのないことである。自分が渡した菓子の類といえばケーキだけだ。

「ねえ、それ……リシャールさん、本当に何か悪い物でも食べたんじゃ……」

「え?」

 引きつるカルミアの笑みにはベルネも混じって三人が首を傾げる。

「私、飴なんて渡してないけど……」

「でもリシャールはカルミアからだって……確か手紙、校長室に戻ったら手紙が添えてあったって話してたわ!」

「それいつのこと!?」

「確か、出張から戻ってすぐだったかしら」

 ただの飴だ。それがきっかけでリシャールに何かあったとは限らない。けれどリシャールの様子がおかしくなった時期と一致していることから、どうしても気になってしまう。たとえ害のあるものではなかったとしても、カルミアの名をかたる人物がいることは確かだ。

「私、リシャールさんを探してきます!」

 いてもたってもいられなくなったカルミアは走り出す。そんなカルミアに続いたのはオランヌだった。

「ならあたしも! ついでに一発殴りたいしね」

 ウインクを披露するオランヌにはドローナが続く。

「それじゃあ私も。二、三発はひっぱたかないと気が済まないわ」

 この時ドローナとオランヌは無言で頷き合い、二人はリシャールに近づけない方が良いと思うカルミアであった。

 その後、手分けして校内を探し回るもリシャールの姿は忽然と消えていた。途中で合流したオズも捜索に協力してくれたが、見つけることは叶わない。ベルネは耳を澄ませて学園中を探ってくれたが、リシャールの声はどこからも聞こえないそうだ。

 不安なまま朝を迎えたカルミアはいつも通り学食の制服に袖を通していた。慣れ親しんだ空色のワンピースに雲のような白さを放つエプロンは、近頃で着れば落ち着く馴染みの服装となっている。
 戦闘服に身を包んだカルミアは慣れた足取りで出勤前にリシャールの部屋に立ち寄った。これからどうなるにしろ、まずはリシャールと話し合う必要があるだろう。
 けれど肝心のリシャールは姿を消したまま、部屋の主はいつものように不在だった。
< 147 / 204 >

この作品をシェア

pagetop