悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「みんなカルミアに騙されてる。学園だけじゃありません。王子であるオズが陥落すれば国さえカルミアのものになってしまう。だから私はみんながカルミアの毒牙に掛かる前に助けようとしたんです!」

「毒牙」

 語彙の威力に思わず呟く。十七年生きて生きて初めて使われた言葉だ。

「残念でしたね、カルミア。私がいなければ貴女の企みは成功していたかもしれないのに」

「ちなみに私の企みって何?」

 素っ頓狂な反応を目にしたレインはさらなる怒りを爆発させた。

「とぼけないで! 貴女、逆ハーレムを狙っているんでしょう!」

「は?」

「主人公が入学する前に登場人物たちを篭絡して学園を、いずれは国さえ乗っ取るつもりのくせに!」

「とんだ冤罪ね」

「嘘よ!」

(むしろ乗っ取りを阻止してほしいって頼まれた側!)

 騙されたような形で学園にやって来たカルミアである。全く身に覚えのない罪状だ。
 しかしレインは頑なに主張を曲げようとはしなかった。

「悪役令嬢の好きにさせるわけにはいかない。だから私はリシャールを使ってカルミアを追い出そうと思った。心を変える薬なら必要とされていたカルミアは不要に。悪役であるリシャールは薬の効果で善良に。そうすれば学園の危機は去るはずだったのに……こんなのまるで、あのリシャールは本気で学園を守ろうとしていたみたいじゃないですか!」

 人を傷つけるようなこの行為が反対の行動であるのなら、リシャールは心から学園を守ろうとしていたことになる。
 動揺から取り乱すレインを前に、カルミアは自分が酷く落ち着いていることを感じていた。

「どうして上手くいかないのか? それは貴女が間違えたからよ」

 認めたくないと叫んではいるが、おそらくレインも自身のあやまちに気付いている。だからこそ正論を突きつけられたレインはきつくカルミアを睨むしかなかった。

「私が悪いと言うんですか? 悪役令嬢の癖に!」

「貴女だけを責めたりしないわ。思い当たる節がないとはいえ、貴女が私の行動に思い悩み今回の事件を起こしたというのなら、私にも責任はあるんでしょうね」

「カルミア?」

 非を認めるとは思わなかったのだろう。レインはカルミアの名を呼んだきり困惑している。
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