悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
(そうでしょうね。私たちの知るカルミアなら罪を認めたりしない。あの人はいつだって横暴で、最後まで自分に非があるとは考えもしなかった)

 けれど自分は違う。同じ名前を受け継いでいようと考え方は違うのだ。

(こうなる前にきちんと話せていたら、違う道もあったはずよね。きっと私たちは仲良くなれた。いいえ、今からだって遅くない)

 同じ転生者であれば不安に苛まれるレインを励まし、友人としてそばにいることも出来ただろう。
 しかしレインは一人で抱え込み事件を起こしてしまった。過ぎたことは変えられないが、これから関係を築けるかは彼女の行動次第だ。

「レインさん。貴女にこの事態を嘆き、アレクシーネの魔女としての誇りがあるのなら協力して」

「どうして私がカルミアに協力しないといけないんですか」

「私がこの事態を収束させるからよ」

「出来るわけありません。貴女は知らないかもしれませんけど、一度開いた扉は主人公にしか閉めることは出来ないんです。ここに主人公はいません!」

「それはどうかしら。案外私にも出来るかもしれないわよ?」

「ふざけないで下さい!」

「こんな時にふざけたりしないわ。いい? 私は扉を閉めに行くから、レインさんは校門に向かって」

「校門?」

「あれを外へ出してはだめ。学園で抑えるの。そのためにあれの苦手なものを用意させているわ。レインさんはあれが何か知っているんでしょう? 対処法もね。私の代わりにみんなに指示を出して。生徒たちの避難に迎撃、やることはたくさんあるわ」

「でも、私なんて……」

 今にも消え入りそうな声で囁くレインにカルミアは言い放つ。

「貴女もアレクシーネの魔女でしょう!」

 これが最後だ。これ以上、彼女に時間を割くわけにはいかない。ドローナたちは今もカルミアの戻りを待っている。この言葉を聞いて何も感じないようならレインと手を取り合える未来はないだろう。
 レインが何故と繰り返すことはなくなった。自分の足で立ち上がり、カルミアと同じ目線で対峙する。彼女も覚悟を決めたようだった。

「お願い。手伝って」

 再度の求めに頷いたレインは校門の方へと走っていく。それが逃げるためか、あるいは立ち向かうためなのか、今はまだカルミアにはわからない。

(逃げるのならあの子はそれまでね。でも逃げずに立ち向かうのなら……私たち、これから仲良くなれそうだと思わない?)

 同じ故郷で育った者同士、弾む話もあるだろう。この事件が終わを迎えたのならゆっくり前世とゲームについて語り合いたいと思った。
< 158 / 204 >

この作品をシェア

pagetop