悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「決まっています。私がカルミアさんを守りたいと思うからですよ。偽りの魔法に踊らされ、これ以上大切な人を傷つけるわけにはいきません」

「リシャールさん、薬の効果が?」

「いえ。どうやら、まだ続いているようです。先ほどから、頭の中で違うと囁く自分がいる。まるで自分がもう一人いるようですね。この薬を作った人間は、さぞ優秀なのでしょう。ですが魔法のせいにするわけにはいきません。カルミアさん、私は貴女を傷つけてしまった」

「覚えているんですか?」

「全て記憶にあります。本当に申し訳ありませんでした」
 
 カルミアは張りつめていた緊張が解けていくのを感じていた。もともと怒っていたわけではないのだ。カルミアはふわりと笑うことでリシャールを安心させようとした。

「もういいんです。もとに戻ってくれたのならそれだけで私は」

 それにすべてが反対になる薬だと知った今、ゲームとは違うリシャールの本心を知ることも出来た。

「カルミアさん。貴女を傷つけた事への謝罪は改めて、きちんと償わせてください。ですがまずは校長としてこの事態を把握したい」

「わかりました。これまでのこと、お話します」

 カルミアは今回の事件についてすべてを話した。そうでなければリシャールは校長として判断を下すことが出来ないからだ。

 ここが物語の世界であること。
 その中でカルミアとリシャール、ドローナが悪役として君臨していたこと。
 物語とは違う悪役たちの行動に、学園が乗っ取られてしまう可能性を危惧したレインという生徒がリシャールの心を変えカルミアを追い出そうとしたこと。
 その全てを話終えた時、リシャールはカルミアも知らないレインの家名を呟いた。

「そうですか。レイン・ルティアが……」

 当たり前のようにその名を呼ぶリシャールは、すべての生徒を記憶しているのだろう。
< 164 / 204 >

この作品をシェア

pagetop