悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
事件の終わりに
 地上に戻るとリシャールは糸が切れたように倒れこむ。

「リシャールさん!?」

 カルミアはとっさに抱きとめるが、リシャールは意識を失っていた。

「そんなに焦らなくても安静にしておけばそのうち目が覚めるんじゃない?」

 のんきに言われても安心出来るはずがない。適切な処置に戸惑っていると、ちょうどレインが礼拝堂へと駆け込んできた。ゲームの知識があれば彼女にもこの場所がわかるはずだ。

「カルミア!」

 走り寄ったレインはカルミアの前で膝をつく。彼女がここにいるということは、外の騒動は落ち着いたのだろうか。
 そしてカルミアの腕に抱き留められたリシャールを目にするなりたちまち悲鳴を上げそうになった。

「っ、校長先生!? 私、すみませんでした!」

 意識のないリシャールに向けて必死に頭を下げている。

「謝って済むことじゃありません。私、どんな罰でも受けます。こんなことをしたんです。もう学園にいる資格だってありません!」

 ここで意識のないリシャールに変わって彼の意志を伝えるのはカルミアの役目だ。カルミアは優しく彼女の名を呼ぶ。

「レインさん。裁かれたいところ悪いんだけど、校長先生は貴女を許したいそうよ」

「何を言ってるの……だって、私、取り返しがつかないことをした!」

「レイン・ルティアさん」

「え?」

「リシャールさんは貴女の名前、ちゃんと知っていましたよ。優秀な魔女にはこれからも自分の生徒として学園で学んでほしいんですって。今回のことは自分の弱さだと言ったわ」

 じわじわとレインの瞳に涙がたまる。

「私っ、なんてことを……」

「リシャールさんね、自分の意志でレインさんの魔法を打ち破ったんですよ」

 カルミアの言葉を耳にしたレインは信じられないと眠るリシャールの見つめた。

「確かに私の薬は未熟で、効果は長持ちしないけど、それでも一週間は持つはずなのに……無理やり破るなんて、それほどの強い想いが……?」

 本来ならば起り得ないことだと製作者自らが語る。けれどそれはカルミアの目の前で実際に起きたことだ。リシャールには早く目覚めてほしいほしいと願うばかりだった。
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