悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「先日立ち寄った国で良いスパイスと出会えまして、試しに作ってみたらリデロたちにも好評なので売り出してみようかと。そのためにもスパイスの配合を研究しているところなんです。これは初めてでも食べやすい味付けにしてありますよ。あとはとろみがつくまで煮込めば完成です」

 次第にとろみがついていく様子をリシャールは見逃すまいと見守っていた。

「不思議ですね。魔法も使っていないのに……完成が楽しみですね」

 相変わらずリシャールの姿は調理場には不釣り合いではあるが、カレーの完成を楽しみにしてくれる無邪気さは船員たちと変わらないものだった。

(リデロたちも初めてカレーを食べた時ははしゃいでいたわよね)

 始めは茶色い液体を警戒しながら。そして一口食べればたちまち虜になっていた。
 船での食事作りは当番制となっているが、頻度で言えばカルミアに回ってくることが最も多いだろう。理由は単純にカルミアが料理を作ることが好きだから。そしてもう一つ、船員たちが女性の手料理が食べたいと騒いだ結果である。おかげで本日もカルミアの手料理は大盛況だ。

「やったぜ! お嬢のカレーだ!」

 リデロが景気よく叫ぶと船員たちも便乗して騒ぎだす。

「はいはい、喜んでもらえて嬉しいわー」

 厨房では手の空いている者とカルミア、そしてリシャールがテーブルを囲むことになった。
 白い皿にたっぷりと盛られた白米からは炊きたての香りが。皿のもう半分にはカルミア特製のカレーが流し込まれ美しい対比を描いている。
 いつもなら何気ない顔で食事をするカルミアだが、今日に限っては酷く緊張しているようだ。何しろ初めてカレーを口にする人がいる。
 興味深そうに眺めていたリシャールの口元にスプーンが迫る。まずはスープだけをすくい、一口食べたリシャールはこう言った。

「美味しい……」

 思わず零れたような呟きに、カルミアは身を乗り出す。
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