悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
 カルミアはのんびりとした態度の船員たちに気合を入れるべく、船長として発言する。

「みんな! 私たちは急ぎのお客様を乗せているのよ。お客様のためにも敵をゆっくり後悔させている暇はない。すぐに終わらせるわ。よって食事の続きは後でとします!」

 カルミアの決定に今度こそ船員たちは揃って顔を引きつらせ、代表してリデロが心の声をまとめ上げる。

「こりゃ、相手の船に同情だな。おーい野郎どもー。やっぱ訂正。お嬢の魔法に巻き込まれるなって通達急げー!」

 そう言いながらもリデロは名残惜しそうにカレーをかきこむ。伝令役には完食していた別の船員が向かってくれたようだ。とっさに鍋を押さえてくれた船員も、そのままの体勢で深く頷く。彼はこのまま鍋を守ってくれるつもりらしい。

「まさか、カルミアさんが戦うおつもりなのですか? 危険なのでは」

 部外者として口を挟まずに見守っていたリシャールだが、いよいよ黙ってはいられなくなったらしい。
 すると今度はカルミアたちが信じられないとリシャールを見つめ返した。

「ちょっとみんな聞いた!? この反応! リデロなんて真っ先に私より敵の心配をするのよ。リデロ、見習って」

「俺は正しい判断をしただけですって! お嬢は勇ましすぎて嫁の貰い手が心配になるんですよ」

「余計なことを言ってると敵と間違えるわよ。そもそも私にそんな口を叩こうなんて、すでに敵?」

「なんでもないですって! おっし、久々の戦闘だ。俺らの船を狙ったこと、後悔させてやるか!」

 ようやく完食したリデロも慌てて甲板に向かった。
 カルミアが外に出ると、静かだったはずの海は一変していた。その原因は後方に見える海賊船にある。黒い帆にドクロを掲げ、海賊であることをこれでもかと主張していた。
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