悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「リデロさん。いえ、副船長! どうか船長を私に下さい!」

「え、俺!? いや俺、そんな……急に娘さんを下さい的なこと言われてもどうしていいかわかんないんだけど! 旦那様に聞かないと!?」

「二人とも、いいから場所を移しましょう」

 ぎゃあぎゃあと主にリデロが騒いでいるため、船員たちの何事かという視線が痛い。自分もうっかり告白かと身構えてしまっただけに、好奇の視線にさらされると尚更気まずい思いが膨らんでいく。

 海賊を捕らえたことで海は平和になったはずだった。しかし何か別のとんでもないことが始まろうとしている。そんな予感がしていた。

「それで先ほどのあれは、その……どういうことですか!?」

 とてもイエスかノーだけでは答えられない問題だ。

「もちろん順を追って説明させていただきます。ですが、不用意に混乱を招いてはいけません。これからする話はどうか私たちだけの秘密にしていただけないでしょうか?」

 リシャールの願いは尤もだと思う。すでに混乱しているカルミアが言うのだから間違いないだろう。

「わかりました。カルミア・ラクレットの名に誓って」

 こういう時、英雄の名には絶大な効力がある。リシャールは安心して事情を語り始めた。

「実は、我がアレクシーネに危機が迫っているようなのです」

 ここでのアレクシーネとは王立学園のことだろう。しかし危機とは一体……。

「何者かが学園の乗っ取りを計画しているようなのです」

「なんですって!?」

 とんでもない事態にリデロと声を揃えて顔を見合わせる。

「証拠はありません。ですが、不穏な気配を感じていることも事実。どうやらその者は私を校長の座から引きずり落とし、学園を我が物にすることを目論んでいるようなのです」

「そんなことが許されるんですか!? リシャールさんは国王陛下から正式に辞令を受けているんですよね?」

「もちろんです」

 アレクシーネ王立魔法学園の校長を命名する権利は国王陛下にある。その決定を覆すことは容易ではない。
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