悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「リデロ。そもそも私は特別顧問に仕事の範囲があったのか疑問よ」

「確かに……」

 その一言でリデロは納得した様子だった。

「いい? これはロクサーヌの民としてもラクレットの人間としても放っておくことの出来ない事態。それにリシャールさんはとびきりの対価を用意してくれた。これは我が家に利益の有る正当な取引。そこにラクレットの利益が転がっているのなら、私は家のために動くわよ。私にはそれが許されてるってこと、忘れてないわよね?」

「お嬢のおっしゃる通りでーす」

 副船長との話がまとまったところで口をはさんだのはリシャールだ。

「あの、私がいうのもはばかられますが、仕事の方はよろしいのですか?」

「現状最優先すべき案件はリシャールさんのおかげで希望が持てました。今後の仕事も、私はラクレット家の特別顧問の席をいただいているので、自由に動けるんですよ」

「特別顧問?」

 リシャールが首を傾げると、リデロが得意げに語り始める。

「いいか、兄弟。お嬢はな、それはもう凄いんだ」

「リデロ、そう持ち上げないで。ただの相談役ってだけなんだから」

「簡単にいいますけど、特別顧問て当主の次に権限がある人なんですけどね。知ってました!?」

「知ってるわよ」

「それからご自分の年齢を考えてから言ってくださいね。お嬢の年で抜擢されるってのはな、すげーことなんだぜ兄弟!」

「まあその、カルミアは己の感覚を信じ見聞を広めよという父からのお墨付きもありますから。学園に潜入するくらい問題ないと思います。もちろん父に正直に連絡は入れさせていただきますが」

 断りを入れてから、カルミアは執務机の上に置かれていた水晶を引き寄せる。カルミアの顔を綺麗に映し出す透明度と大きさは立派なものだ。

「先ほどから気になっていましたが、随分と大きなものを使用されるのですね」

 魔法大国ロクサーヌでは遠く離れていても連絡を取り合う手段がいくつか発明されている。その中でもこれは、同じ石が共鳴するという手法を用いたものだ。
 カルミアの水晶は人の顔程もあり、ここに魔力を注げば遠く離れた地にある片割れに声が届き、会話が出来るという仕組みになっている。
 しかしカルミアは浮かない表情で答えた。
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