悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
 それはいいのだが。一度選択肢を間違えるとあっさりバッドエンドを迎えてしまう緊張感が付きまとう作品だ。それも大体が死を迎える結末である。

(魔法学園ものなのに夢も希望もないわね。ファンの間では暗い魔法学園ものと話題になっていたし)

 主人公の目指す先に幸せなエンディングは存在するが、どこかほの暗さを拭いきれない世界観だった。

(しかも私の名前、カルミアって! 自分が悪役令嬢なんて聞いてないわよ……)

 またしても人生十八年目にして衝撃の事実が判明する。どうやら自分は悪役令嬢だったらしい。ゲームではただカルミアとだけ表記されていたため、彼女の家名を知ったのは初めてだ。
 確かキャラクターの紹介文にはこう書かれていた。

『名家の出身だが実家は没落。プライド高く横暴な上級生』
 
 もとは名家の出身であり、彼女は魔法に興味がなかった。けれど実家に居場所はなく、追いやられるように学園への入学が決まる。
 そのため常に不満が付き纏い、不機嫌そうな態度ばかり取っていた。加えて名家に生まれたというプライドは強く、横暴に振る舞うのだ。
 当て馬となり、幸せな光景を見せつけられることも多数。そんな彼女がたどる末路はとことん主人公に巻き込まれてのリタイアである。
 自分より目立つ主人公のことが気に入らず、でしゃばり続けた結果、主人公より先に退場……すなわち死亡する。

(私はカルミア、確かにカルミアだけど。十八年間ゲームの運命から逃れてきたっていうのに、どうして今更ここにいるの!? まさか、一向に学園に現れない悪役令嬢(わたし)に痺れを切らしてリシャール自ら迎えに!?)

 決して可愛い制服につられてですとは言いたくないカルミアであった。

(おそらくゲームの運命的な何かでしょうね。ええ、きっと。私には抗いようのない力が働いているんだわ。でも主人公にかかわらず生活していれば問題ないわよね。ゲームのシナリオにはかかわらないようにして、そっと仕事を終えて消えれば問題ないはずよ。そうしましょうって……あ、え?)

『名家の出身だが実家は没落。プライド高く横暴な上級生』

 自分の紹介文がリフレインすると、急速に背筋が冷えていく。
< 42 / 204 >

この作品をシェア

pagetop