悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
(その時、私は重大なことに気付いてしまったのです)

 思わずナレーション口調にもなるだろう、衝撃的な事実に。

(うち没落するの?)

 今度はだらだらと汗が背中を伝う。

(そんなの阻止に決まっているわ! ゲームのシナリオなんて知らないわよ! うちがどれほどロクサーヌの経済動かしていると思って!? うちが没落したらロクサーヌだって衰退するわよ!)

 早すぎる前言撤回。カルミアはゲームにかかわり自分の設定を完膚なきまでに破壊すことを決めた。

(けどうちは没落していない……ということは、まだゲームは始まっていない?)

 はたして今はいつなのだろう。まずは没落回避のためにもじっくり調べて回る必要がありそうだ。
 ショックに打ちひしがれていたカルミアだが、光明が見えたことで元気を取り戻す。むしろ未来を知っているからこそ、実家を救うことが出来るかもしれない。

(出来ることならゲームには関わらずにいたかったけれど……)

 しかしカルミアはリシャールと出会い、ゲームの舞台へと足を踏み入れてしまった。同じ立場の登場人物同士、引き合うものがあったのだろうか。

(そうよ……そもそもリシャールの密偵って何! どんな設定!? 危険しか感じないわよ!)

 リシャール・ブラウリーもまた、攻略対象ではないがゲームにとって重要な登場人物である。

(どうして顔を合わせた時に思い出せなかったの? というかリシャールさんて、本当にあのリシャール……よね?)

 ゲームのリシャールを知っていても気付かなかったのではないか。そう思わせるほど、カルミアの前に現れたリシャールは別人だった。
 優しさの滲む瞳で穏やかに笑い。流暢に会話を重ねる。惜しげもなくカルミアを称え、学園の未来を守ろうとさえしている。

(だってリシャールは、あんなに優しそうな人だった?)

 ゲームでは冷たそうな印象ばかり受けていたと思う。

「カルミアさん、カルミアさん!」

(そうよ。こんな風にカルミアの名前を呼ぶこともなかった……って、私を呼んで?)

 どうして自分の名前が呼ばれているのだろう。

「カルミアさん!」

 思わず返事をしてカルミアは飛び起きた。すると目に見えて安堵するリシャールの顔が見える。

「ああ、良かった。目が覚めたんですね」

「私……」
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