悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「まるでいいところのお嬢さんみたいな娘だねえ。あたしはあんたみたいな苦労を知らなさそうな小娘は嫌いなんだ。どうせいつもみたいにすぐ辞めるんだろう。よろしくしてやる義理はないね」

「なんですて?」

 仕事に対する不誠実を疑われたカルミアは反論しようとした。しかしロシュがカルミアを押し留めて間に入る。

「まあまあ、そう言わずに! カルミアさん。ベルネさんは今ちょっと気が立ってるだけなんですよ。ほら、ベルネさんも! 校長先生からは料理上手だって紹介されたじゃないですか。僕、カルミアさんの作った料理、楽しみですよ」

「ロシュ、誰にでもしっぽを振るのはおよし。本当にこんな小娘に料理が出来るのか、あたしには疑問だね。役立たずは隅で掃除でもしてな。どうせあんたの仕事なんてありゃしないんだ」

「まあ確かに、今更新しい人が来るって不思議な話ですよね。ここ、もうすぐなくなっちゃうのに」

「待って! それ、どういうこと!?」

「あれ、聞いてないんですか? ここ、次の職員会議で閉鎖が決まるらしいですよ」

 聞いてない!!

(え、な、なに!? いきなり潜入先がなくなりそうなんですけど!?)

「といってもあと一週間くらいはありますし、仲良くやりましょうよ!」

 どうやら密偵生活は一週間の命らしい。快く職場に迎えてくれるロシュには悪いが、カルミアはとてもそんな気分にはなれなかった。

(潜入先がなくなったら私の密偵生活はどうなるの!? まさか一週間で終わらせろってこと!?)

 考えなければならないことは多い。しかし業務の説明が入ったため、カルミアは耳を傾けざるを得なかった。

「えっと、僕の仕事はお客様を席に案内して、料理を運んで、お会計をすることです。料理を作るのはベルネさんですよ」

 この学食は、どうやらレストランのようなシステムらしい。ロシュの説明はわかりやすいものだった。

「仕事の内容は理解したわ。でも、ロシュは随分と大変な業務を一人で行うのね。その作業を一人でこなすにはロシュの負担が大きいと思うんだけど、凄いのね」

 よほど優秀なのだろう。しかし褒めたつもりがロシュは目を泳がせている。

「それは、えっと……この学食、ちょっと人気がないみたいで……」

「人気がない? 学園の人達はあまり学食を利用しないの?」

 だから閉鎖されてしまうのか。
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