悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「みなさん街で買ったお昼を持参されたり、お弁当を用意していたり、あまり立ち寄らないみたいで」

「そうだったの……」

 知られざる学園の食事情である。

(そういえば主人公もよくお弁当を用意していたわね。もちろん手作りで、攻略対象に渡すために)

「それとカルミアさん。大切なことを伝え忘れていました。これから何を食べても、この学食で不味いは絶対に言っちゃだめですよ」

「それが大事なこと?」

「なんでもこの学食のものを食べて不味いと言っていた人は、それはもう不幸な目にあうとかで!」

「なんて?」

「ああっ! さては信じていませんね!? 本当なんですよ! 実際に何人もの人が被害にあってるんですから!」

「はあ……」

「ホントなんですって! 足の小指をぶつけたり、コップが勝手に倒れて大事なノートが濡れたり、何もない所で転んだり、背中を押されたり、雨の日に傘を失くしたり、あとは、えっと……」

「一応、不吉な言い伝えがあることは理解したわ」

「良かったです。あ、もうすぐオープンの時間ですね。学食のオープンは十一時からですよ。今日も開店っと!」

「よ、よろしく……」

 どうやらリシャールの元へ駆け込む時間は残されていないようだ。こうなったら仕事が終わった後、真っ先に乗り込んでやろうと決める。
 生徒だろうと学食だろと、すでにカルミアの密偵生活は始まっているのだ。始まった以上は疑われないよう、表向きの職務を全うしなければならない。生徒ならば勉学を。学食勤務ならば料理の提供をだ。

「ところで私はロシュのサポートを? それともベルネさんのサポートに回ったほうがいい?」

 ロシュはともかく、ベルネのサポートは不安だが、仕事であれば仕方がない。覚悟を決めるしかないだろう。

「うーん……どっちも一人で足りちゃうんですけど……」

「え?」

「あ、じゃなかった! えっと、じゃあその……臨機応変にお願いします!」

「わかり、ました」

 ロシュには申し訳ないが、カルミアは不安しか感じていなかった。
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