悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「凄くないわよ。そうだ! 聞きそびれてたんだけど、私たちの食事はどうしているの?」

「ベルネさんがまかないを作ってくれますよ。あ、良かったら今のうちに食べちゃってください。これも経験という事で、せっかくなので席に座って待ってて下さいね。僕が運びますから!」

 カルミアは女生徒の邪魔にならないよう、気配を消して反対側のはじに座る。
 ところがしばらくしてロシュが運んできたのは信じられないメニューだった。
 スープとパン一個である。

「はい?」

 見るからに固そうなパンと、野菜が浮いた限りなく透明な液体だ。

(嫌がらせ?)

 確かにベルネには嫌われていると思う。だからといって仕事で露骨な嫌がらせしてくるだろうか。それに素直なロシュがそのような悪行の片棒を担ぐとは考えにくいだろう。

(もしかしてこれが普通ってこと?)

 カルミアは必死に自問する。そして自答する。

(仕事で訪れた奥地の村で振る舞われた料理の方が手が込んでいたわよ!?)

 そしてここは魔法によって発展し、豊かな生活を送るロクサーヌである。

(で、でも、食べるととても美味しいのかもしれないわ! そうよね。見た目で判断しちゃだめだよね!)

 まずは一口。スープを飲ませてもらった。

(ほとんどただの水!)

 想像通りである。
 続いてパンをちぎろうとして驚いたのはそのかたさだ。

(かたい!?)

 指先がマヒしそうだ。

(それにぱさぱさ……)

 食感も予想通りである。
 しかたなく、カルミアはスープという名の水にパンを浸して食べることにした。

「これはちょっと……」

 そこでカルミアはロシュの助言を思い出す。けれどどうしても言いたくてたまらない。ロシュもおそらくそれを見越して助言してくれたのだろう。

「これは、あまり美味しいとは言い難いような……」

「カルミアさん!?」

 ロシュの動揺と同時に肌がざわりと波打つ。それまで感じていた清涼な空気が塗り替えられ、肌を刺すような刺激を感じた。まるで誰かの怒りに触れたような。
 けれどそのことをロシュが不審がる様子はない。それよりもカルミアの発言の方に動揺している。

(何!? 急にフロアが魔力で満ちた……)

 目には見えない何かがカルミアに向けて牙を剥いている。警戒を強め、様子を窺っているとその何かが襲い掛かろうとしていた。
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