悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
 挑発に乗ったベルネは精霊の力を行使しようと、厨房には今にも暴発しそうな力が集う。
 しかしここはベルネにとっての楽園だ。無暗に力を放ち破壊するつもりはないらしく、律儀にも「表へ出な!」と場所を移すようだ。
 ベルネとて自らの魔法を片手で弾いたカルミアの力が厄介であることは察しているのだろう。いきなり攻撃を仕掛けるような真似はしなかった。

「待ってください。私は腕力で解決するつもりはありません。ここはどこです?」

「どこってアレクシーネだろ」

「アレクシーネ王立魔法学園、その学食です。私たちは学食で働いているんですから、勝負は料理でつけるべきかと思います」

「どうしてあたしがそんなことに付き合わないといけないのさ」

(いいわ、もう一押しね。出番よ悪役令嬢カルミア!)

「力では勝つことが出来ても、料理では勝てないということでよろしくて?」

「ああんっ!?」

「たかが小娘相手に全力の魔法で屈服させようというのも、大人げないを通り越して恥ずかしいものですわ。ねえ、心優しい精霊様? もっとも料理での敗北を認めるのが怖いと言うのなら仕方ありません。今すぐ魔法で決着をつけるのもいいでしょう。ですがその際には貴女の料理より私の料理の方が優れていたと学園中にふれまわらせて頂きますわ。オーッホッホッホッ!」

 止めにカルミアは意地の悪い笑みを浮かべる。

(多分こんな感じだったわよね? カルミアの表情)

 記憶を頼りに悪役に徹するカルミアであった。

「随分と好き勝手言うじゃないか、小娘」

 ベルネが低く唸る。今にも飛びかかりそうな目をしていたが、カルミアは怯まない。気圧されては戦う前から負けているようなものだ。

「ではそちらも言い返してみてはいかがです?」

 カルミアは優雅な微笑みで応戦した。
 ベルネは本気で自分の料理が美味しいと信じている。でもそれは何百年も昔の価値観で、時代は変わるのだ。それを誰かが現実として示さなければならない。

「いいだろう。小娘にどれほどのものが作れるのか見せてもらうのも一興、その料理勝負とやらに乗ろうじゃないか。ただし、負けたらこの学園を出て行ってもらうよ」

「わかりました。勝負の方法は私から提案しても?」

「言ってみな」
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