悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
 安心させようと、カルミアは急いで本を掲げる。おかげで今回は逃亡を防ぐことが出来たようだ。警戒していたレインも目的がわかれば少し肩の力が抜けたように見える。

「わ、わざわざすみません。私が本を忘れたばかりに、手を煩わせて……。それに、食堂ではその、騒いでしまって……」

 だんだんと俯いていくレインを止めようと、カルミアは明るく話しかける。

「いいえ。学食は本来は賑やかなものですから。私、静かすぎると思っていたんです。私たちこそ騒いでしまって、驚かせてしまいましたよね」

「いえ! ただ私が、人が苦手で、びっくりしてしまって。私が意気地なしなだけでなんです! もう嫌……私、どうしてアレクシーネに来てしまったんだろう……。貴女もどうせ私なんて場違いだって思いますよね!?」

「そうは思いません」

「え?」

「レインさんは立派なアレクシーネの生徒ですよ」

「どうしてそんなことがわかるんですか!? 私、とてもついていけないんです。本当に、どうしてこんなところにいるのかわからない……」

 いっそ否定してほしいのだろうか。けれどカルミアは自分の考えが間違っているとは思えなかった。オズだって彼女の実力を認めていたのだから。

「えっと、レインさんよね。レインさんはどうしてアレクシーネに?」

 この世界では、もちろん優れた魔女になる以外にも生きる道はある。けれどレインは魔女になる道を選んだからこそ、難関であるアレクシーネに入学したのだろう。
 レインは言葉に迷いながらもぽつぽつと語り始めた。

「私が生まれたのは小さな村で、村では私が一番の魔女でした。父も母も、これはアレクシーネに入るしかないと言い出して……。村からアレクシーネの生徒が出るのは初めてだって、みんなが喜んでくれて、とうとう断れなくなって……」

 周囲の期待は時に残酷なものだ。一歩間違えれば自分もそうなっていたかもしれないと思うと、他人事とは思えなかった。

「私は、こんなことを言ったら故郷のみんなに怒られてしまうけど、ここには来たくなかったんです。本当に、私なんか場違いで……」

 想いを打ち明け、俯いていたレインははっと顔を上げる。

「ごめんなさい! 貴女にこんなことを言っても仕方がないのに」

「いいえ。友達同士なら、相談にのるものよね」

「友達……?」
< 74 / 204 >

この作品をシェア

pagetop