悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「そ、友達。何度も言うけど、私はレインさんの考えには頷けないわ。だってレインさん、勉強熱心じゃない。とても優秀だって、オズも貴女を認めていたわよ」

「オズさんが、私を!?」

「ええ。そうだ! 明日なんだけど、よければ学食に来てみない? 新しいメニューを始める予定なの。よければ食べに来て!」

「あの、でも私……」

「アレクシーネに来てよかったって、少しでも思ってもらえるように、私は学食を通じて頑張るから! それじゃあ、また明日」

 抜かりなく宣伝も行ったカルミアは引き続き学園の調査に戻った。

 とはいえそう簡単に情報が転がっているわけもない。あちこち見て回るうちに、すっかり日が暮れてしまった。こんな時はむだに広い学園の敷地が恨めしい。
 カルミアはもう一度寮に戻り、制服のエプロンを脱くと大急ぎで街へ向かう。寮生活が自炊であることを思い出したはいいが、現在の食材はゼロである。
 そこから買い物を終える頃には夜も深まり、学園から人の姿は消えていた。

(長い一日だったわね。でもさすがはロクサーヌの王都。夜なのに明るいわ。それに人の気配がたくさん。お店も遅くまで開いているし助かるわね)

 魔法の発達とともに夜は闇ではなくなった。とくに王都では常に明かりが街を照らしている。それは月の光も霞むほど眩いものだ。

(月も星も遠く感じるわね。波の音が聞こえないことも不思議。ここは私が生きてきた世界とは違うのね。何もかも……)

 真っ暗な空に浮かぶ月とは違う。そこにあるのかも不安になってしまう。

(それに賑やかだけど、リデロたちはいないのよね)

 まるで、というより完全にホームシックである。どうしても何かが足りないと感じている自分がいた。
 肌寒さに、カルミアは腕をさする。

(さすがに夜は少し冷えるわね)

 じっとしていると、じわじわと寒さが這いあがる。考えてみれば制服は半袖だ。動き回ったり日差しがあれば問題ないが、夜は肌寒く感じてしまう。こんな時はベルネのデザインが羨ましくなった。

(でも海の上はもっと寒かった。ちゃんと温かくしろって、いつもみんなに心配されて。こんなことじゃ、また口うるさく言われるわね)

 しかしカルミアの名を呼んだのは家族ではなかった。

「カルミアさん?」
< 75 / 204 >

この作品をシェア

pagetop