悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
 昨夜何をしていたかと聞かれれば、すべてリデロの報告の通りである。

「何してたんですか?」

「急にうちの業績がとてつもなく気になってしまったの。どうしても自分の目で確認したくてね」

「はあ……? それで、どうでした?」

「特別顧問も満足の成長ぶりだったわね」

「それは何より、ですね?」

 リデロは訳がわからないと首を傾げているが、カルミアもわからないのだ。
 調べてみてもラクレット家の業績は好調。没落に繋がりそうな問題はどこにも見当たらない。不正も疑い予告もせずに自ら屋敷に乗り込んでみたが、帳簿は正確そのものだ。

「それで? 頼んでおいたものは揃っている?」

「当然です!」

「ご苦労様。さすが私の船の副船長ね」

「もっと褒めてくれていいですよ!」

 カルミアは差し出された包みを受け取る。
 任務を達成したリデロもほっとしたようだ。

「まあその、突然わけのわからない行動を取られて焦りはしましたけど、元気なようで安心しましたよ。ちょっとやつれてはいますけど……」

「そういうこと、私以外の女性には言わない方がいいわよ。というか私にも遠慮なさい」

「お嬢のことは女性だと思ってな……いえなんでもありません!」

 殆ど言い終えていたが、リデロは大慌てで訂正する。怒る気力さえ惜しいとカルミアが思ったことが彼にとっての救いだった。
 そしてここぞとばかりにリデロは強引に話題を変えていく。

「船を降りてどうなることかと思いましたが、お嬢の人使いの荒さも変わっていないようで安心しましたよ」

「まだ船を降りて一日じゃない。それに、船には頻繁に戻る予定よ。貴方達こそ、私のことを忘れないか心配なんだけど」

「なわけないでしょう! 今日もお嬢の料理が恋しいって、みんなして話してたんですから!」

「そういうところよね。はいこれ」

 カルミアは手にしていたバスケットを差し出す。

「これは?」

「朝早く働かせて悪かったわね。私が抜けた負担も大きいでしょう? それなのに、嫌な顔せずに送り出してくれて嬉しかったわ。ありがとう、副船長。貴方がいるから私はここにいられるのよね」

「お嬢……で、これなんですか! なんか、美味しい予感がするんですけど!」

 ここでムードをぶち壊すのがリデロなのだと思う。良いことを言ったつもりが台無しだ。
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