悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「朝食にと思って、リデロの好きな卵サンドを作ったの。前に美味しいって言ってくれたでしょ。あとはベーコンに、ロールパンにハムとレタスを挟んだものもあるわ。甘いのもね。たくさん作ったから、みんなで食べてちょうだい」

 昨日、カルミアが買い出しに走ったのはこのためである。リデロたちにお礼をしたいと思い立っての行動だ。
 バスケットを覗いたリデロの表情がぱっと輝く。どうやらお礼は喜んでもらえたようだ。

「大事に食べさせてもらいます。これで今日の仕事も乗り切れそうですよ」

「大袈裟ね」

「何言ってるんですか! 食事は俺らの楽しみなんですよ。お嬢が食事の楽しさを教えてくれたんじゃないですか」

「そうなの?」

「そうなんです。っと、俺らはこれから旦那様の使いがあるので、そろそろ行かないと」

「お父様の依頼で商品を搬送するんだったわね」

「はい。いったんロクサーヌを離れますが、明日にはまた港に戻る予定です」

「そう、明日には戻るのね。ならついでに朝一番で届けてほしいものがあるんだけど」

「ほんっとに変わってないようで安心しましたよ! なんなりとご命令下さい、船長!」

 投げやりになりながらもリデロはしっかりと依頼を引き受る。それはカルミアが対決で勝てば必要になるものだ。

「ではお嬢――いえ、船長。どうかお気をつけて」

 リデロだけはカルミアが学園にいる本当の目的を知っている。そのための心配と気遣いだろう。

「ありがとう。貴方たちもね」

 海に出る彼らも常に危険と隣り合わせの生活を送ることになる。カルミアは彼らの無事を心から願った。

「またね」

 小さくなりつつある背中に声を掛け、カルミアもまた自らの戦場へと向かう。
 出勤すると、ベルネは昨日と変わらずお茶を啜っていた。しかしカルミアの姿を目にすると、ふっと唇だけで笑い明らかな挑発を見せる。
 だが徹夜明けのカルミアにはあまり効果がないようだ。目くじらを立てるだけ労力の無駄と、朝の挨拶で受け流す。
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