メーティスの牙
「もしもし?」

玲奈の声に僅かながら緊張が混じっていることに透は気付く。しばらく玲奈は相槌を打った後、電話を切った。

「マイケルはどうなったの?」

「意識がなくて、医師が懸命に治療に当たっているそうよ。でもいつ急変するかわからない。倒れた原因がわからないのだから……」

「そうか……」

玲奈は透に背を向け、また部屋の中を探し始める。その手はかすかに震えていた。

「ジェニファーはね、私が高校生の頃アメリカに留学した時に初めてできた友人なの。彼女は悪い男に騙されて、マイケルを身篭った。それからはずっとシングルマザーでマイケルを育てている。ジェニファーにとって、マイケルはたった一つの宝なんだ」

そう言い続ける玲奈の手はまだ震えている。透の体は自然と動いていた。

「無理して冷静を保つなよ。戸惑ってんのはみんな同じだ」

透は玲奈の隣に立ち、震えるその手を優しく包む。初めて触れた玲奈の手は小さく、柔らかい。
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