猫になんてなれないけれど
それから、以前と同じようにマンションの前まで送ってもらい、富士原さんの車が見えなくなるまで見送った。

いつも通り、車はすぐに走り去ってしまったけれど、今日は、切なさよりも、近い未来の約束が楽しみな気持ちの方が強かった。



あれからは、じゃあどこに行こうかと、食事に行くお店について2人で色々と相談をした。

お礼だから、冨士原さんの好きなお店や食べたい料理がある店がいい。

以前、私が訪れて美味しかった海鮮和食店のことを話したら、行ってみたいと言われたので、場所はそこにしようと決めた。

去年の忘年会の時、クリニックのみんなで行った、相澤先生おすすめの店。

大人数で行くとオープンな席になるけれど、個室も充実しているし、料理だけでなく雰囲気もいい店なのだ。

日にちは、来週、土曜日の夜。

私はちょうど勤務日なので仕事帰りになるけれど、冨士原さんは基本的には休みだし、都合がよさそうだったので、相談をしてこの日になった。

楽しみだな、と、心が躍る。

あれからも、「好き」だと言われたわけでもないし、甘い言葉をかけられたりもしていないけど。

それでも、心の距離が近づいたのは、確かなことだと思いたい。



考えながら、エントランスを通り抜け、マンションの中に入って行った。

いつも通りの静かなロビー。
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