猫になんてなれないけれど
昼間は、エントランス脇の管理室に管理人さんがいるけれど、夕方には業務終了なので、今は窓にカーテンがかかり、中の電気も消えていた。

少し古いし、オートロックではないけれど、防犯カメラは所々にきちんと設置されている。

ファミリー層が多く、世帯数も30戸程のマンションなので、3年も暮らしていると、なんとなく、ほぼ全員と顔見知りのようになっていた。

家賃も相場ぐらいだし、値段の面でも安全面でも、私はこのマンションが結構気に入っている。


(さて・・・ポストをチェックして、と)


ロビーのすぐ脇にある、集合ポストの前に行く。

暗証ダイヤルを回して小さな箱の扉を開けると、DM葉書が2通来ていた。よく利用する通販と、化粧品会社からのクーポン葉書。

表、裏、と、葉書を眺めてポストの扉を閉めた時、背後で何か物音がした。

「!」

ビクッと驚き、振り向いて辺りを見回してみたけれど、人影はなく、風が吹き込んだなどの様子もなかった。

じゃあ、なに?何の音?もしかして、隠れた場所に誰かいる・・・?

ふと、先日、エレベーターに乗り込む際に見かけた人影のことを思い出す。

あの時は気のせいだろうと思ったけれど、もしかして、気のせいじゃないーーー?


(・・・やだ)


途端に、強い恐怖に襲われた。

急ぎ足で廊下を進み、エレベーターホールに進んで行った。やっぱり、なんとなくだけど気配を感じる。私はスマホを取り出して、ロックを解除しておいた。


(エレベーターに乗り込まれでもしたら大変だし・・・誰かにすぐ連絡できるようにしておこう)


警戒しながら、右、左、後ろを振り向いて誰もいないことを確認する。

エレベーターに乗ろうとボタンを押すと、ちょうど、1階に住んでいる顔見知りの真鍋さんご夫婦が軽装でこちらに向かって歩いてきた。

「こんばんはー」

「こんばんは・・・」

ご主人が、手にお財布だけを持っていた。二人でコンビニにでも行くのだろう。
< 102 / 169 >

この作品をシェア

pagetop