猫になんてなれないけれど
「冨士原さんは、何の役をやるんですか?」

「・・・犯人役です」

「犯人・・・。ネット犯罪の、ですよね」

「ええ。なんでも、いかにも犯人顔らしいので」


(う、うーん・・・でも、わかる気がする・・・)


強盗とかの犯人顔ではないけれど、頭を使ったネット犯罪のようなもの・・・知能犯の役柄が似合う感じは否めない。

映画やドラマを見ていても、知能犯役の俳優さんって、こういう雰囲気の人多い気がするもんね・・・。

一人で納得していると、冨士原さんは私にチラッと目を向けた。

「・・・真木野さん。今、『はまり役』って思ったでしょう」

「え」

「顔に出てましたよ。思いっきり」

冨士原さんがふっと笑った。

しまった!と思って一瞬ドキッとしたけれど、気分を害した訳ではなさそうだった。

「まあ、全員一致で役に抜擢されたので。間違いなくはまり役なんでしょう」

「・・・そ、そうですね・・・。でも、悪人っぽいっていう訳ではなくて、多分・・・知的な感じだからかと」

きっと、職場の皆さんもそういう見解だと思う。

冨士原さんは一呼吸をおいて、少しだけ、また笑った。

「それは、確実に眼鏡の効果だろうけど。真木野さんに、そう表現されるのは悪くないな」

街灯が途切れた道路。

暗い車内は、些細な表情の動きはわからない。

だけど、冨士原さんの声音に甘さが含まれていたことは、私の耳が理解した。












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