猫になんてなれないけれど
お店には、予約時間の5分前に到着をした。
入り口にいた和服姿の店員さんに名前を言うと、やや奥まった、2人用の個室に「こちらです」と案内された。
個室内は、部屋の角にテーブルがはめ込まれた掘りごたつ式の席だったので、自然と、冨士原さんとは斜め隣の位置になる。
この店の個室は初めてだけど、正面に向き合う形じゃなくてほっとした。
照明も落ち着いた色調だから、2人きりで、もちろんドキドキしているけれど、それ以上の変な緊張は感じない。
ひと息つくと、私は、立てかけてあったメニューを開いて冨士原さんの方へと向けた。
「よかったら、好きなものなんでも頼んでください。・・・って、萌花の奢りですけれど」
「ああ・・・はい。ありがとうございます」
メニューを眺めて、2人で注文の品を決めていく。
おすすめのメニューを聞かれたので、答えると、刺身盛りと金目鯛の煮付けとしらすサラダも加わった。
そういえば、飲み物は・・・と、ドリンク類のメニューページを開いた時に、私は、今更ながらにはっとする。
「そうだ・・・冨士原さん、車でしたね・・・」
ものすごく肝心なことに、遅ればせながら気がついた。
ここは海鮮和食のお店だけれど、レストランより居酒屋寄りだし、メニューもお酒に合う料理が多い。
冨士原さんも、きっと飲みたかったはず。
「すみません・・・。お礼で食事に誘っておいて、車を出してもらうとは・・・」
「いえ。車はオレから言ったことですし。理由はどうあれ、女性側に食事だけでなく車も出してもらうのは、さすがに気が引けるので」
「・・・うーん、とはいえ・・・。あ、よかったら、帰りは私が運転するので飲んでください」
普段、基本的には電車移動が多いけど、車も度々運転するし、下手じゃない、という自負がある。
ワゴン車とかは無理だけど、冨士原さんの車はセダンだし、私にも運転できるだろうと思った。
「大丈夫ですよ。いずれにしても酒は飲まないつもりでいましたし。それに、オレが送ってもらったら、真木野さん、帰りの足がないでしょう」
「あ、そうですね・・・。でも、大丈夫です。電車で帰ります」
「うちは最寄り駅まで遠いですよ。バス停までも結構あるし・・・」
そこで一旦言葉を止めて、冨士原さんは、考えるような間をおいた。
そして、「ああ」と、思いついたように言葉を繋ぐ。
「そうだな。それか、そのまま泊まっていきますか」
「・・・え」
「そのまま、オレの家に」
真顔の横目を向けられて、私の身体は固まった。もちろん思考も停止した。
頭の中は真っ白で、瞬きさえも、できているのかわからない。
それでも、なんとか息を吸い込むと、冨士原さんはふっと笑った。
入り口にいた和服姿の店員さんに名前を言うと、やや奥まった、2人用の個室に「こちらです」と案内された。
個室内は、部屋の角にテーブルがはめ込まれた掘りごたつ式の席だったので、自然と、冨士原さんとは斜め隣の位置になる。
この店の個室は初めてだけど、正面に向き合う形じゃなくてほっとした。
照明も落ち着いた色調だから、2人きりで、もちろんドキドキしているけれど、それ以上の変な緊張は感じない。
ひと息つくと、私は、立てかけてあったメニューを開いて冨士原さんの方へと向けた。
「よかったら、好きなものなんでも頼んでください。・・・って、萌花の奢りですけれど」
「ああ・・・はい。ありがとうございます」
メニューを眺めて、2人で注文の品を決めていく。
おすすめのメニューを聞かれたので、答えると、刺身盛りと金目鯛の煮付けとしらすサラダも加わった。
そういえば、飲み物は・・・と、ドリンク類のメニューページを開いた時に、私は、今更ながらにはっとする。
「そうだ・・・冨士原さん、車でしたね・・・」
ものすごく肝心なことに、遅ればせながら気がついた。
ここは海鮮和食のお店だけれど、レストランより居酒屋寄りだし、メニューもお酒に合う料理が多い。
冨士原さんも、きっと飲みたかったはず。
「すみません・・・。お礼で食事に誘っておいて、車を出してもらうとは・・・」
「いえ。車はオレから言ったことですし。理由はどうあれ、女性側に食事だけでなく車も出してもらうのは、さすがに気が引けるので」
「・・・うーん、とはいえ・・・。あ、よかったら、帰りは私が運転するので飲んでください」
普段、基本的には電車移動が多いけど、車も度々運転するし、下手じゃない、という自負がある。
ワゴン車とかは無理だけど、冨士原さんの車はセダンだし、私にも運転できるだろうと思った。
「大丈夫ですよ。いずれにしても酒は飲まないつもりでいましたし。それに、オレが送ってもらったら、真木野さん、帰りの足がないでしょう」
「あ、そうですね・・・。でも、大丈夫です。電車で帰ります」
「うちは最寄り駅まで遠いですよ。バス停までも結構あるし・・・」
そこで一旦言葉を止めて、冨士原さんは、考えるような間をおいた。
そして、「ああ」と、思いついたように言葉を繋ぐ。
「そうだな。それか、そのまま泊まっていきますか」
「・・・え」
「そのまま、オレの家に」
真顔の横目を向けられて、私の身体は固まった。もちろん思考も停止した。
頭の中は真っ白で、瞬きさえも、できているのかわからない。
それでも、なんとか息を吸い込むと、冨士原さんはふっと笑った。