猫になんてなれないけれど
「・・・美味しそう・・・」

料理を目にして、わくわくとする私の前に、冨士原さんが腰掛けた。

真正面に彼が来たことで、私は突然はっとする。

「そ、そうだ。私、パジャマでしたね・・・」

それはまだ、いいんだけれど。

すっぴんの顔に、手ぐしで整えただけの髪。

メイクの顔とすっぴんが別人なわけではないけれど(多分)、確実に、「イケてない私」の自覚があった。


(さっきキスまでしたわけだから、今更な節もあるけれど・・・)


寝起きのすっぴんボサボサ頭。食事中、真正面でずっとそれを見られることは、私的には結構つらい。

とはいえ、このタイミングでどうする訳にもいかないので、せめても、と、髪を整えパジャマの胸元を整えて、何気なく、椅子の位置を少しずらした。

彼の真正面にはならないように。

「・・・気にしなくていいですよ。なんか、色っぽいし」

私を見つめて、冨士原さんがフッと笑った。

少し甘さを含んだ視線に、心はすぐに捕らわれる。

「真木野さん、いつもきちんとしてるから。寝起き姿は貴重だし・・・そういうのも、オレは好きなのでそのままで」

「とりあえず食べましょう」と声をかけられて、私は、はっとなって捕らわれた意識を今に戻した。


(好き・・・私の寝起きが?)


「・・・」

すっぴんのボサボサ頭は私が落ち着かないけれど、冨士原さんがいいって言ってくれるなら、ひとまず・・・いいってことにしておこう・・・。

うん・・・なかなか落ち着かないけれど。

「じゃあ・・・いただきます」

「どうぞ」

気持ちを切り替え、早速、と、ふわふわのオムレツにフォークを横から差し入れた。

そのまま口に運んでいくと、予想以上のふわとろ加減にほんのりチーズの味がした。

「・・・美味しい」
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