猫になんてなれないけれど
感動のあまり、自然と言葉が漏れていた。

富士原さんは、「よかった」と、ほっとしたような顔で言う。

「簡単だし、一応、得意料理ではあるんだけど。口に合うかは少し心配だったので」

「美味しいです。レストランのオムレツみたいで・・・。すごいですね、どうやったら、こんなにいい感じのふわふわにできるんですか?」

「・・・どうだろう。牛乳の量と火加減でしょうか。何回か作ってたら、そういう仕上がりにできるようになったんだけど」


(な、何回か作っただけでこのレベル・・・)


元々、料理のセンスがいいのかな。

いや、というか、料理に限ったことではなくて・・・。

「冨士原さん、できないこととか苦手なこととか・・・欠点ってないんですか」

純粋に、疑問に思う。

だって、ルックスは整ってるし、頭もいいし。剣道部だったそうだから、運動もきっとできるんだろうし。

優しいし真面目だし、料理もできるし・・・今のところ、欠点らしい欠点ってひとつも見つからないんですけど・・・。

「・・・いや。普通に。たくさんありますよ」

「えっ、どこに」

「・・・どこって・・・・・・色々あるけど、基本的に愛想がないですし、人当たりも良くないし」


(・・・そういえば・・・)


思い返せば、という感じだけれど。

私も以前は、冨士原さんに冷たいイメージを持っていたっけ。

今は真逆の印象だし、そもそも、それは欠点ってわけではない気もするけど・・・。

つい数ヶ月前の感情を振り返っていると、冨士原さんは「それに」と言って話を続けた。

「・・・あまり、おもしろい話ができないし」

言い終えた、彼の顔はかなり真面目で。

どうやら、真剣に悩んでいる分野のようだった。


(・・・でも・・・)


「・・・冨士原さん、おもしろいです」

呟くと、冨士原さんは無言で私に目を向けた。

どのへんが、と、疑問を抱いた表情なので、言葉を付け足すことにする。

「・・・前にも言った気がしますけど・・・。芸人さんとか、お笑い的な感じじゃなくて。なんというか・・・真面目なおもしろさがあります」

「・・・」

意味がわからない、といった様子で見つめられ、私も、自分の表現力の少なさに、「ですよね」という気持ちになった。

嘘でもお世辞でもないんだけれど・・・。
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