猫になんてなれないけれど
日曜日の昼間だけれど、さほど道路は混んでなかった。
彼の家から私の家の近くまで、ほぼ予想通りの時間に着いた。
近隣のコインパーキングに車を止めて、そこから歩いて約1分。あっという間に、自宅のマンション前へと辿り着く。
「・・・」
エントランスを前にして、足取りが急に重たくなった。
今は冨士原さんも隣にいるし、怖いことなんて何もないって思うのに。
「・・・大丈夫?」
いつの間にか、私は立ち止まっていたらしい。
冨士原さんの声を聞き、はっと意識を取り戻す。
「・・・、大丈夫です。少しだけ、怯んじゃいましたけど」
そう言って、僅かながらの笑顔を作ると、心の中で、再び「大丈夫」だと自分自身に言い聞かす。
けれど、エントランスのドアを開くと、気持ちが揺らぎ、途端に心臓が震え上がった。
不安が押し寄せそうになってくる。
うつむいた私の右手を、彼の手が、ぎゅっと握った。
「エレベーターは向こうですか。3階って言ってましたよね」
「あっ、はい」
突然のことに驚きながらも、彼のリードでエントランスホールを抜けていく。
あっという間に不安な場所は過ぎ去って、止まっていたエレベーターに乗り込んだ。
冨士原さんが「3階」「閉」のボタンを押して、ドアが閉まるとエレベーターが上昇していく。
はぁ、と息を吐く私。
緊張から、解放された心地がしたのだと思う。
「・・・やっぱり、怖いですか」
「そうですね・・・。まだ、昨日の今日だし・・・」
「・・・そうか・・・」
チーン!という音が鳴り、3階でエレベーターのドアが開いた。
外に出て、角の部屋まで廊下を進む。
1日ぶりの自分の家。
鍵を開けて見慣れた玄関の景色を見ると、不思議なくらいに懐かしくって、帰れたことにほっとした。
「・・・どうもありがとうございました。ここまで送っていただいて・・・」
安堵の息を漏らした後で、冨士原さんにお礼を言った。
彼は「うん」と頷いて、私の頭に手を置いた。
「やっぱり、少し心配だけど」
「すみません・・・。でも、ここまで来たら安心したし、大丈夫だと思うので」
「・・・じゃあ、もし、なにかあったら・・・というか、寂しくなったり不安になったらすぐに連絡してください。なるべく早くここに来るから」
見上げると、約束のように彼が笑った。
もうひとつ、安心感が降りてきて、私は「はい」と頷いた。
「じゃあ・・・様子を見てまた連絡します。・・・あ、お茶でも飲んでいきますか?」
突然気がつき尋ねると、冨士原さんは笑って首を横に振る。
「そうしたいけど。多分、仕事に行くのが億劫になると思うので」
「そ、そっか。まったりしちゃいますもんね・・・」
「うん。また今度」
私に軽くキスすると、「じゃあ」と言って右手を上げて、彼はドアの外へと出て行った。
パタン、と、ドアが閉まる音。
甘い余韻と寂しさが、同時に心を支配する。
彼の家から私の家の近くまで、ほぼ予想通りの時間に着いた。
近隣のコインパーキングに車を止めて、そこから歩いて約1分。あっという間に、自宅のマンション前へと辿り着く。
「・・・」
エントランスを前にして、足取りが急に重たくなった。
今は冨士原さんも隣にいるし、怖いことなんて何もないって思うのに。
「・・・大丈夫?」
いつの間にか、私は立ち止まっていたらしい。
冨士原さんの声を聞き、はっと意識を取り戻す。
「・・・、大丈夫です。少しだけ、怯んじゃいましたけど」
そう言って、僅かながらの笑顔を作ると、心の中で、再び「大丈夫」だと自分自身に言い聞かす。
けれど、エントランスのドアを開くと、気持ちが揺らぎ、途端に心臓が震え上がった。
不安が押し寄せそうになってくる。
うつむいた私の右手を、彼の手が、ぎゅっと握った。
「エレベーターは向こうですか。3階って言ってましたよね」
「あっ、はい」
突然のことに驚きながらも、彼のリードでエントランスホールを抜けていく。
あっという間に不安な場所は過ぎ去って、止まっていたエレベーターに乗り込んだ。
冨士原さんが「3階」「閉」のボタンを押して、ドアが閉まるとエレベーターが上昇していく。
はぁ、と息を吐く私。
緊張から、解放された心地がしたのだと思う。
「・・・やっぱり、怖いですか」
「そうですね・・・。まだ、昨日の今日だし・・・」
「・・・そうか・・・」
チーン!という音が鳴り、3階でエレベーターのドアが開いた。
外に出て、角の部屋まで廊下を進む。
1日ぶりの自分の家。
鍵を開けて見慣れた玄関の景色を見ると、不思議なくらいに懐かしくって、帰れたことにほっとした。
「・・・どうもありがとうございました。ここまで送っていただいて・・・」
安堵の息を漏らした後で、冨士原さんにお礼を言った。
彼は「うん」と頷いて、私の頭に手を置いた。
「やっぱり、少し心配だけど」
「すみません・・・。でも、ここまで来たら安心したし、大丈夫だと思うので」
「・・・じゃあ、もし、なにかあったら・・・というか、寂しくなったり不安になったらすぐに連絡してください。なるべく早くここに来るから」
見上げると、約束のように彼が笑った。
もうひとつ、安心感が降りてきて、私は「はい」と頷いた。
「じゃあ・・・様子を見てまた連絡します。・・・あ、お茶でも飲んでいきますか?」
突然気がつき尋ねると、冨士原さんは笑って首を横に振る。
「そうしたいけど。多分、仕事に行くのが億劫になると思うので」
「そ、そっか。まったりしちゃいますもんね・・・」
「うん。また今度」
私に軽くキスすると、「じゃあ」と言って右手を上げて、彼はドアの外へと出て行った。
パタン、と、ドアが閉まる音。
甘い余韻と寂しさが、同時に心を支配する。