猫になんてなれないけれど
・・・もう少しだけ、がんばろう。

大丈夫。ここは家だし、あの男性は逮捕されたし。

あの時打った背中の痛みはもうないし、スマホに映っていた私の写真も消去されてるだろうからーーー・・・。


(・・・・・・って、消去・・・されているのかな)


再び不安が浮上して、がんばろうって決意が揺らぐ。

そんなこと、当然大丈夫だろうと思うのに・・・。


(・・・ダメだ。やっぱり・・・)


不安と恐怖で頭の中がいっぱいになり、私は、我慢していた手をスマホに伸ばす。

ーーー別に、無理してほしいわけじゃない。

急いで来てくれなくていい。

仕事が終わってからでいいから・・・少しでも、彼に会いたい。

そんな思いで電源をONにしてみると、何件かの電話とメールの着信が、画面に表示されていた。

もしかして、と、詳細を確認しようとした瞬間、「ピンポーン」と玄関のチャイムが鳴り響く。

「!」

ビクッと肩を震わせて、ドキドキしながらインターホンの画面を見ると。


(・・・冨士原さん!)


画面越しの彼を見て、私は、急いで玄関へと向かって行った。

「・・・こんばんは。すみません、こんな時間に」

鍵をあけてドアを開くと、彼は、穏やかな顔で私のことを見下ろした。

ーーー・・・ほっとした。嬉しかった。

会いたいって、思った人が来てくれた。

「何度か連絡したんですが、返事がないのが気になって。・・・と、いきなり来られても迷惑かとも思いましたが。少し、心配だったので」

「ーーーーー・・・」

「・・・真木野さん?」

「・・・」

何か言ったら、声が震えるような気がして。

ほっとして、嬉しくて、涙が出そうな予感がしたから、唇を結んでうつむいた。

けれど、そんなことで止められる感情ではなかったようで、涙は勝手に溢れてく。
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