猫になんてなれないけれど
涙のしずくが、床にこぼれた。

「え!?あ・・・、どうしました?」

「・・・・・・っ、・・・・・・っ」

「・・・なにか、あった?」

無言で首を振る私。

困らせていることは確実で、泣き止みたいのに、涙がうまく止まってくれない。

「・・・・・・・・・どうした」

言いながら、冨士原さんがそっと私を抱き寄せた。

彼の香りと、シャツに染みこんだ石鹸の匂いが鼻をかすめる。

あたたかい胸。

安心感に包まれて、涙がさらに流れてく。

「・・・っ、・・・っ」

「・・・・・・」

泣き止まない私の背中を、大きな手が、優しく触れる。

ぽんぽん、って、あやすみたいに。あったかくって、優しい手。


(・・・・・・)


私はまた、子どもみたいになってしまった。

大好きな人を、困らせたくはないけれど。

心配なんてかけたくないし、泣き顔だって見せたくないって思うけど。

そんな私の想いすら、甘く溶かしていくような、全て許されていくような、安心感が私を包む。


(・・・今は、それでもいいのかな・・・)


止めたいけれど、涙は止まってくれないし。

背中を優しく触れる手が、「そうだよ」って、「いいよ」って、伝えてくれてるような気もして。

今は、このまま。

涙が止まってくれるまで、私は、彼の胸に甘えてしまうことにした。






< 144 / 169 >

この作品をシェア

pagetop