猫になんてなれないけれど
「それと、面識があるのでわかっているかもしれませんが・・・。あの男は、基本的には真面目で気が弱いタイプのようですね。まだ取り乱している状態ですが、反省というか・・・後悔の言葉は何度も口にしています。

今後、真木野さんにつきまとう勇気は微塵もないと思われますが、二度と接触しないよう、文書でも約束させてます。加えて、今後の警戒も怠りませんので。ご安心ください」

「・・・そう、ですか・・・」

私は安堵の息を吐く。

もちろん、全ての恐怖がなくなったという訳ではないし、今後の不安もゼロじゃない。

だけど、彼に言われた通り、話を聞いて私はかなりほっとした。

「・・・少しは安心しましたか」

「はい、ありがとうございます・・・。冨士原さん、もしかして、今日はこのために職場に行ってくれたんですか」

本来ならば休日のはず。

だけどきっと、昨日の、私の件があったから・・・。

「ああ・・・まあ・・・そうですね。けど、丁度、別件で担当している仕事の用事もあったので」

「そうなんですね。でも・・・ありがとうございます」

真っ直ぐに目を見てお礼を言うと、彼は、「いえ」と、照れたように視線をそらした。

「オレは、大した事はしていませんが。少しでも安心していただけたようでよかったです。・・・まあ、とにかく。今後は不安になったらすぐに連絡だけでもしてください」

「はい・・・」

相槌のように頷くと、冨士原さんはちらりと私のことを見た。

本当に連絡するのかと、ちょっと疑うような目で。

「・・・すぐですよ。今度は、すぐに連絡してください」

「え、あっ・・・はい」

「・・・・・・若干、怪しい感じの返答ですが。約束です」

眼鏡越しにジッと視線を向けられて、思わず口を噤んでしまった。

多分、ここは、「はい!」って、即座に返事をするべき場面だろうと思うのに。
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