猫になんてなれないけれど
「・・・真木野さん、自分から甘えるのが苦手でしょう」

「え」

「昨日と今日は多少甘えてくれたけど。限界近くなって、やっと、という感じだし」

彼がジリッと距離を近づけて、私は、反射的に背中を反らして身構えた。

なんとなく、責められているような感覚がして、視線を彷徨わせながら彼の言葉に返事する。

「た、多少というか。かなり、甘えてしまったように思うんですが」

「・・・これぐらいで?」

「い、いや、だって・・・」

口ごもると、彼の右手が私の髪に伸びてきた。

思わず彼を見つめると、そのまま視線が捕らわれる。

「遠慮もあるんだろうけど。もしかして、頼りない?」

「ま、まさか」

「・・・本当に?じゃあ・・・・・・どうしようか」

考えるように呟きながら、彼は、私の髪に触れていく。

細くて長い指先が、左耳の後ろを通り、頬を伝って、私の輪郭を顎の先まで辿ってく。

そのまま顎を持ち上げられた。

見上げる姿勢の至近距離。

指先で顎を撫でられて、私はゴクリと息を飲む。

「・・・どうしたら、真木野さんはもっと甘えてくれるんだろう」

言いながら、彼は私の唇を、右の親指でなぞってく。

首元がゾクリと震え、結んでいた唇の隙間が僅かに開いた。

舌先が、彼の指に届きそうな感覚になり、頬がかあっと熱くなる。

「どう・・・、どう、でしょう。わからない、けど、私が・・・もっと、素直になれば」

「・・・・・・うん。じゃあ、なってください」
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