猫になんてなれないけれど
言い終えると、彼は私に口づけた。

一瞬で、深く、全てを埋めていくように。

欲望がかき立てられていく。素直にならざるを得ないほど、胸の奥に、刺激が走る。

思わず、彼の背中に腕を回すと、引き寄せるように抱きしめられて、今度は甘く口づけられた。

途端に頬が上気する。

そして、何度かキスを重ねた後に、彼は静かに距離を取る。

そのまま、私の顔を覗き込み、見透かすように少し笑った。

「今は、だいぶ素直かな」

「・・・っ、だって、こういう時は」

「・・・うん。素直じゃないと困るけど」

彼の手が、左の頬に伸びてきて、指先を滑らせながら私の顎をくすぐった。

首元に、ゾクリとする刺激が走る。

・・・この感覚。そういえば。

冨士原さんは、さっきもこんな感じで私の顎に触れたっけ・・・。


(・・・と、いうか。これって・・・こういう風にするのって・・・!)


「ふ、冨士原さん、私のこと、猫扱いしていませんかっ」

指先で、顎をくすぐる感じとか。

これって多分・・・彼女じゃなくて、猫を相手にすることだよね!?

恥ずかしさと、怒りが混じったような気持ちで私は彼に抗議する。

「・・・ああ・・・・・・、どうだろう。無意識だけど。かわいいから、してたかもしれない」

「は、はあ!?」

恥ずかしさと怒りの感情が、最大限まで上がってしまった。

頬が熱くて仕方ない。

もっと反抗したいのに、言葉もうまくでてこない。

そんな私の頭のてっぺんを、冨士原さんはポン、と触って微笑んだ。

「じゃあ、ついでに。ここに耳でもつけてもらおうかな」

「・・・」


(猫耳!?)


「ふ、冨士原さん、そういう趣味だったんですか!?」

「いや。違うけど。真木野さんなら似合いそうだしいいかもしれない」

「!?」

驚く私を、彼は笑って抱きしめた。

そして、耳元で「冗談だよ」って囁いた。

「・・・まあ、つけてもらってもいいんだけど。真木野さんは、このままで十分かわいい」
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