猫になんてなれないけれど
もう一度、彼のキスが私の元に舞い降りた。

優しくて、甘いキス。怒っていたのに、何も言えなくなってしまった。

蕩けるような感覚に、思考回路が停止する。

今はもう、本能でしか動くことができなくなったかもしれない。

ーーー彼の腕を、ぎゅっと掴む。

キスの深度が深まって、胸元に、彼の右手が滑ってく。

細長い指がカットソーの裾を潜ると、私の肌に、直接触れた。

背中の金具は片手ですぐに外されて、大きな手が、私の胸を捕らえてく。

吐息が漏れる。

耳に何度かキスをされ、身体が甘く震えだす。

「・・・ここでいい?」

低い声が耳に響いて、全身が、疼くような心地になった。

一秒だって待てないけれど、僅かな理性と願望が、私に口を開かせる。

「・・・ベッドがいいです・・・」

答えると、彼は静かに頷いた。

そのまま私を抱きかかえると、寝室に向かって歩き出す。

リビングと、もうひとつしか部屋はないので、場所は聞かないでもすぐにわかったようだった。

器用に扉を開けて中に入ると、ゆっくりとベッドに降ろされた。

薄暗い部屋。

リビングから漏れる光だけが、私たちの身体を照らす。

眼鏡を外し、シャツを脱いだ冨士原さんが、ベッドに腰掛けて私の頬にキスをする。

「・・・いつも、今みたいに甘えていいのに」

「・・・、今は、だから、特別で」

「うん・・・そうかもしれないけど。オレは、常に甘やかすのが好きだから」

ゆっくりと、スカートの中を彼の右手がなぞってく。

じれったいような感覚がして、手を伸ばし、彼の腕を捕まえた。

多分、気持ちは伝わって、彼の身体が重なった。

体温がすぐに上がってく。

早く、全部を知りたいけれど。全部を知ってほしいけど。

だけど、まだ。焦らずに。ゆっくりと、お互いの指を絡ませる。

だって、これから。

私たちの夜は、始まったばかりなのだから。



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