猫になんてなれないけれど
遠くから、うっすらと聞こえるアラーム音。

その音が、徐々に耳の奥まで届いてきたので、手を伸ばし、アラームボタンを解除した。

まだ、夢と現実の狭間くらいにある意識。

ぼんやりとしたまま起き上がり、何気なく、視線を右に向けてみる。

・・・と、その瞬間。驚いて、私は一気に目が覚めた。

「おはようございます」

Yシャツにスーツ、完璧に身なりが整った冨士原さんが、私を見下ろしそう言った。

AM6:30。

すでに非の打ち所がない彼の、「おはよう」を、こんな寝起き姿で聞くなんて。

「あ・・・お、おはようございます・・・」

「おはよう。よかった。アラームが鳴り止まなかったら、起こそうと思ってたとこだから」

彼が笑った。

私は色々恥ずかしくって、髪を整えながらうつむいた。

「・・・早いですね、冨士原さん」

確か、冨士原さんも6:30に起きると言っていた気がするけれど。

この様子だと、だいぶ前に目を覚ましていたのでは・・・。

「いや。オレも、さっき起きたばかりだよ。多分、5分前くらい」

「・・・え!?」


(5分前!?)


5分間で、そのクオリティに仕上がるの?

寝起きの良さにも驚くけれど、5分間でその姿に到達できているなんて、元々の・・・素材がいいからだと思う。


(私の起床5分後なんて、絶対にまだパジャマだし、ボサボサ頭で完全寝起きの顔だしね・・・)


冨士原さんは私の寝起き姿も好きって言ってくれたから、まさに寝起き直後の私でも、幻滅しないと思うけど。

やっぱり私は恥ずかしい。冨士原さんが、完璧であればあるほどに。

「・・・でも、すごい。冨士原さん、アラーム無しで起きれるなんて」

恥ずかしさを誤魔化すように呟くと、冨士原さんは「うん」と笑った。

「休日は遅いんだけど。平日は、なぜかアラーム前に起きれるっていう結構便利な習性がある」

「え、すごい。それはほんとに便利ですね」

私なんて、何度も起こしてくれるよう、アラームのスヌーズ機能が絶対的に必要なのに。

寝起きがいいって、それだけですごい才能だ。
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