猫になんてなれないけれど
ペンも渡され、早速、記された項目を上から順に記入する。


(名前、年齢、職業と、趣味は・・・なんだろう、動物の癒やされ動画を見ることだけど・・・ミュージックビデオも時々見るし、音楽鑑賞って書いておこうかな)


「婚活」となると、素直に趣味も書きにくい。

「動物好きが集まる」という前提のパーティだから、そういう趣味は好感を持ってもらえるのかもしれないけれど。だからこそ、「癒やされ動画が好き」なんて、狙ってるみたいで逆に書くのを躊躇する。


(でも、こういう場では、正直に書いた方がいいのかな)


うーん、としばらく悩んだけれど、結局は「音楽鑑賞」と記入した。

初参加だし、とりあえずは無難な感じでいってみようという気持ちもあったし、初対面の男の人に、「動物の癒やされ動画が好きです」と、伝えられる素直さを、私は持ち合わせてはいなかった。

「犬派ですか?猫派ですか?」の質問には、迷わず「犬派」と記入して、全ての項目を書き終えた。


(よし・・・これで終わりだね)


傷心状態で自信はないし、不安だってすごく大きい。

だけどやっぱり、「いい出会いがありますように」と、どうしても期待してしまう。

へんなことを書いていないか、エントリーシートを見直していると、入り口の方から聞き覚えのある声がした。

「申し訳ありません。時間ギリギリで」

「いえいえ、大丈夫ですよ~。お仕事お忙しいでしょうから、気になさらないでくださいね~」


(・・・ん?さっきの声・・・)


「さあ、どうぞどうぞ」と、受付の女性に促され、バンケットホールに一人の男性が入ってきた。

眼鏡をかけた涼やかな顔に、長身の細身の紺色スーツ。私は思わず、「あっ!」と驚きの声をあげてしまった。


(な、なんでここに冨士原さんが・・・!)


冨士原さんも、「あ」と口を開いた状態で、驚いた顔になっている。

相澤先生の友人で、時々クリニックの患者さんになる、警察官の冨士原さん。

礼儀正しいけどいつもクールで、私の知り合いの中で、絶対に、こんな場所に来そうもない人ナンバーワン!!
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