猫になんてなれないけれど
「戻りました」

処置室から、受付の裏側に向かって声をかけると、ちょうど、1階にいた最後の診察患者さんが会計を済ませているところだった。

私は軽く会釈して、受付の2人とともに、患者さんがクリニックを出て行く後ろ姿を見送った。

「お疲れ様です。冨士原さんも、もう少ししたら下りてくると思います」

私が言うと、受付の永田さんと天川さんが嬉しそうに「きゃっ」と笑った。

「オッケー!早く下りてこないかな~」

「あっ、私が会計するからね」

「えー、ちょっとやだあ、帰りは私にさせてよお」

女子高生のようにはしゃぐ2人は、ともに40代で子持ちのママだ。

2人共、中学生と小学生の男の子がいるという共通点をもっていて、お互い、某アイドルグループのファンという趣味も同じであるようで、プライベートでもとても仲がいいらしい。

「ねえねえ、上にいるとき、2人でなんか話するの?」

キラキラと、好奇心いっぱいの目で永田さんが私を見つめる。天川さんも、わくわくとした様子で話に耳を傾けている。

「いえ。必要なことは話しますけど・・・それ以外のことは、別に」

私がさらっと答えると、永田さんと天川さんは、「えーっ!」と不服そうな顔をした。

「もったいない!!私なら絶対に、2人きりならいっぱい話しかけるのに」

「ねえ。やっぱりさ、いくつになってもイケメンとお話できるのはいいわよねえ」

「ねー」と、また、2人で意気投合している。

確かに、冨士原さんは知的で素敵な感じだけれど、同時に、堅くて冷たい印象もあり、どちらかというと、私はちょっと苦手なタイプ。

やっぱり、優しい雰囲気の男の人が私は好きだ。
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