猫になんてなれないけれど
「はい!では、男性は次の女性の方に移動してくださーい」

三村さんのかけ声で、隣にいた男性は、私に会釈をして隣の席へと移動していく。

ふう、とひとまず深呼吸。さて、次の人は・・・と、こちらに歩み寄ってきた男性の顔を見上げた私は、「あっ」と小さな声を出す。

「・・・こんにちは」

私の隣に、居心地悪そうに冨士原さんが腰掛けた。

そうだ、冨士原さんとも5分間きっちり話をするんだ。他の人との会話でいっぱいいっぱいで、すっかり忘れていたけれど・・・。


(え、えーと)


知り合いなんだし、とりあえず、たわいもないことから話してみよう。

「こんにちは。その・・・驚きました。冨士原さんが、こういったパーティに参加されるなんて」

「そうですね。私もです。まさか、真木野さんがいらっしゃるとは」


(ですよね・・・)


驚いているのはお互い様だ。そして多分、なぜここにいるのかと、理由に興味があることも。


(そうだ。先に確認しておこう)


「もしかして、潜入捜査ですか?」

声を潜めて確認すると、冨士原さんは一瞬「は?」という顔をしてから、無表情で「いえ」と言った。

「でしたら、職業欄に『警察官』とは書かないですね」

「あ、そ、そうですよね・・・」

動揺のあまり全く見ていなかったけど、冨士原さんが手にしているエントリーシートの職業欄には、「警察官・生活安全部勤務」とキレイな文字で部署までちゃんと書かれている。

・・・と、いうことは。

「そうしたら、仕事じゃなくて、真面目に婚活されてるんですね」

私が言うと、冨士原さんの顔が赤くなる。

わっ、と、ちょっとびっくりしてしまう。当たり前かもしれないけれど、冨士原さんも動揺するんだ・・・。

「・・・まあ、ちょっと、人に言われて」

「人って・・・あっ!相澤先生ですか?」

いつも冨士原さんの体調を心配している、面倒見のいい相澤先生。

奥さんもすごく素敵な人だし、お子さんもかわいくて、賢い男の子と女の子が1人ずつ。きっと、「結婚はいいぞ」とかって冨士原さんに訴えて、婚活パーティを勧めてきたのかもしれない。
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