猫になんてなれないけれど
そう思って尋ねたけれど。

「いえ。まあ・・・家族です。相澤には、黙っておいてもらえませんか。多分、知ったらうるさいだろうと思うので」


(あ、そうなんだ・・・)


ご両親に言われたのかな。36歳なら、ご両親もそろそろって期待しそうな頃だよね・・・。

「わかりました。そうですね、相澤先生、冨士原さんが婚活してるなんてわかったら、ノリノリでお世話してくれそうですもんね」

「ええ。あいつの世話焼きは体調だけで十分なので。よろしくお願いします」

冨士原さんは、無表情でキリッと眼鏡を持ち上げて、鋭い視線で私を見つめた。

万が一、相澤先生に私が言ってしまったら、冷酷に処罰しそうな表情だった。

絶対内緒にしておこう、と、心の中で固く誓う。

「真木野さんは、職場で出会いはないんですか」

今度は私に話が振られ、思わず動揺してしまう。

元彼の祥悟と出会ったのは、以前勤めていた病院だ。今の職場ではないけれど、「職場で出会った」というフレーズに、やっぱり反応してしまう。

「・・・そうですね。患者さんは高齢の方が多いですし、若い方もみんな具合が悪くて来てますし・・・。出入りする業者の方とは、受付のスタッフは色々話すみたいですけど、私はあまり関わらないので」

「そうなんですか。それなら、恋愛に発展するような出会いはないのかもしれないですね」

分析するように告げられて、私はコクリと頷いた。

冨士原さんが、深く追求するタイプの人じゃなくてよかった。

元彼が医療関係者だったということも、つい最近フラれてしまったということも、今はあまり言いたくなかった。

それから、しばしの沈黙が訪れた。

知り合いであるがゆえ、ある程度のことはわかってる。だから逆に、この状況で何を聞けばいいのか悩んでしまった。


(根掘り葉掘りもどうかと思うし・・・)


あと何分くらい残ってるかな、と時間を気にかけていると、冨士原さんは、私の手元のエントリーシートに目を向けた。

「真木野さんは、犬派ですか」
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