猫になんてなれないけれど
「かわいいですよ。近くで見たことありますか?あ、撫でたこととかは」

「・・・ないですね・・・」

眉間のシワが、ものすごいことになっている。そんな顔をしなくても・・・。

「もし道で会ったら、近くに行ってみてください。みんないい子だし、すごくかわいいですよ」

「・・・いえ。私は、遠慮しておきます。・・・大きいし」


(えー・・・。かわいいのに・・・)


最後にボソッと言ったひと言が、ちょっと気にはなったけど。動物好きでも、犬派と猫派はわかりあうことができないのかな。

かわいさが伝わらず残念に思っていると、司会の三村さんの声がした。

「はーい!5分でーす。では、男性は次の方に移動してくださいね~」


(あ、時間・・・。ちょっと微妙なタイミングになっちゃったな)


犬派と猫派で好みがずれて、空気がちょっと微妙になった。

ここで会話が終わるのは、すっきりしない気もするけれど、こればっかりは仕方ない。

「じゃあ・・・ありがとうございました」

「はい。では、また」

無表情で会釈をすると、冨士原さんは席を立ち、隣の女性の元に移動した。その後ろ姿を見送ると、私は一度深呼吸。


(さて・・・ちゃんと気持ちを切り替えて)


振り返ると、私の隣には次の順番の男性が移動してきたところだった。目が合うと、男性はにこっと笑った。

「今田と申します。よろしくお願いします」

「真木野です。よろしくお願いします」


(お。なかなか素敵・・・)


白シャツにベージュのチノパン。ラフでいて、清潔感のある服装だ。爽やかな短髪は、きっとスポーツマンだと予想する。

私の好きなタイプかも。ちょっと・・・祥悟と似ているかもしれない。

「あ、真木野さんは犬派ですか」

今田さんは、私の手元を見ながらそう言うと、自分のエントリーシートを指さした。

「僕も、犬派なんですよ」

「あ、ほんとだ。一緒ですね」

早くも共通点が見つかって、私は自然と笑顔になった。今日初めて、参加してよかったって気持ちになった。
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