猫になんてなれないけれど
(どうしようか・・・。戻ってまた話をするのも辛いけど、ずっとここにいるってわけにもいかないし・・・)


スタッフに探しに来られても嫌だしな・・・と、私は、トイレを出ることにした。

とりあえず会場の様子を覗いてみようと、抜き足差し足でバンケットホールに向かって行った。

そして、何歩か廊下を歩いたところで、後ろから、「真木野さん」と声をかけられ肩をビクッと震わせた。

「は、はい!?」

振り向くと、今田さんが立っていた。驚いた私の反応に、驚いているようだった。

「すみません。驚かせるつもりはなかったんですが」

「い、いえ。こちらこそすみません。静かだし、誰もいないと思っていたので」


(びっくりした・・・)


怪しげにトイレから出てきた姿を見られてしまった。よりによって、今田さんがいたなんて。恥ずかしすぎる・・・。

心の中で赤面する私をよそに、今田さんは嬉しそうな顔で言う。

「けどよかった。真木野さんと話せないまま終わるかなって思っていたから。真木野さん、すごくモテていたので・・・入る隙がなかったでしょう」

「い、いえいえ!今田さんこそ、女の子に囲まれてたじゃないですか」

「いや・・・・どうでしょう。どこがよかったのかな、という感じですけどね。それに僕は、真木野さんと話せればいいと思ってたから、どうやって抜け出そうかってずっと考えてたんですよ」

「えっ」


(そ、それって・・・)


ドキン、と胸が高鳴った。

それって、それって・・・私を気に入ってるっていうことですか・・・?

尋ねるようにチラリと見ると、今田さんはにこっと笑った。

「告白タイムには早いけど、真木野さんの気持ちが他の人に行ってて選ばれないと困るから。よかったら、今、連絡先を渡してもいいですか」


(え、えーーーーーっ!!)


これは、確実に!!気に入ってもらえてるんだ!!

心の中は、テンションMAXに近かった。表面上は、なんとか平静を装っているつもりだけれど。

「これ、僕のプライベート用の名刺です」

「は、はい。ありがとうございま・・・」

お礼を言って、名刺を受け取ろうとした時だった。
< 26 / 169 >

この作品をシェア

pagetop