猫になんてなれないけれど
「あーきーひーろーーーーっ!!!!!」

どこからともなく、うなるような女性の怒った声がした。

今田さんは名刺を落とし、顔色が一気に真っ青に。

ドスドスドス!という足音が聞こえ、音の方向に目を向ける。すると、ものすごい形相の30代半ば位の女性がこちらに向かって突進してきた。


(な、なに!?)


反射的に、私は一歩、今田さんから距離をとる。

「晄博ーーーっ!!!てめえ、またこんなところに来やがって!!!」

今田さんの前まで来ると、女性は、今田さんの胸ぐらをぐっと掴んだ。

かわいらしい顔をしているし、私よりも小さいけれど、体格がわりとがっちりしていて迫力がある。

声こそ出していないけど、今田さんは「ひぃ!」と叫んでいるような表情だ。

「この野郎!!何度目だてめえ!!!」

「や、て、ていうか、なんで、ここ」

「ぁあ!?おまえのスマホにGPSアプリ入れといたんだよ。そんぐらいも気づかねえのか!!脇が甘いんだよ!脇がっっっ!!!」

女性は、胸ぐらを掴んだまま右手で今田さんを持ち上げた。今田さんは、ついに「ひぃぃぃ!」と恐怖におののいた声を出す。

今田さんを持ち上げたまま、女性は、呆然としている私のことをジロリと睨んだ。

「コイツ、あたしの旦那なんで」

「・・・えっ」


(だ、旦那!?)


「すいませんね。浮気目的で何度もこういうパーティ来てるんですよ。真面目そうな女がいいんだね。何度言っても懲りないの。どうしようもない男でしょ。あなたも、騙されなくてよかったね」

そう言うと、女性はずるずると今田さんを引っ張りながら去って行く。

ついさっきまでの今田さんのかっこよさはどこへやら。なんとも・・・情けない姿になっている。


(・・・ドラマじゃないよね・・・)


唖然としながら、二人の姿を見送った。そのまましばらく呆然と立ち尽くしていると、「あらあら~」と言う声が聞こえた。
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