猫になんてなれないけれど
「ああ・・・そうですね。正直に言っておいた方がいいですね」

そう言うと、冨士原さんはキリッと眼鏡を持ち上げた。私はちょっと身構える。

「申し訳ありませんが、真木野さんを好んで選んだわけではありません。真木野さんの名前を書けば、カップルにはならないだろうと予測して、名前を書かせていただきました。予測は・・・外れましたが」

「・・・え」


『好んで選んだわけではなくて』


私だって、同じ理由なのだけど。このフレーズは、実際言われると結構傷つく。

「もしかして、誰ともカップルになりたくなかったんですか」

「はい。それなりには悩みましたが・・・書ける相手がいなかったので。ですが、必ず誰かの名前を書いてほしいとスタッフの方に頼まれて。

真木野さんは元々の知り合いですし、好意を持たれている様子もないし、何人かの男性に囲まれているのを見かけていたので。私を選ぶことはないだろうという確信がありました。・・・申し訳ありません」


(・・・なるほど・・・)


と、納得している場合じゃなくて。

私も同じ理由なんです・・・。

まさか、こんな一致があるなんて。固まる私を、冨士原さんはジッと見つめる。

「それで、真木野さんは、なぜ私を」

お互いに、絶対に選ばれないだろうと確信を持っていた相手。

冨士原さんも、疑問を持つのは当然だ。

冨士原さんに嘘は通じないと思ったし、ここで嘘をつく意味もない。私は、正直に理由を話すことにした。

「同じです」

「・・・というと」

「私も・・・いいなと思う方がいなかったんです。というか、いいなと思った人は既婚者でしたし・・・。だけどやっぱり、スタッフの方に誰かは選んでほしいと頼まれて。けど、もう誰ともカップルにはなりたくなくて、冨士原さんなら、私を選ばないだろうって考えました」

同じ理由ではあるけれど、こんな理由で選んだって直接言われたら、私が傷ついたように、冨士原さんもいい気持ちはしないと思う。

傷ついたかな、それとも怒らせた?と、不安な気持ちで冨士原さんの顔を覗くと、彼は、可笑しそうにフッと笑った。
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