猫になんてなれないけれど
「なんだ。それなら、共犯ですね」

見たことがない顔だった。

無表情が基本で礼儀正しい冨士原さんが、「共犯」って、警察官らしからぬ言葉を、少し、悪そうな笑顔で言った。

引き込まれるような感覚になる。冨士原さんは言葉を続けた。

「お互いに気持ちがないのにカップルになって、こんな店で食事をさせてもらうとか。主催者にしてみたら、騙されたって思うんじゃないですか」

「・・・」


(そうかもしれない・・・)


今更ながら、後ろめたい気持ちになった。まさか食事のプレゼントがあるなんて思わなかったし、騙したつもりはないけれど。

私の不安を感じ取ったのか、冨士原さんはまた小さく笑った。

「大丈夫ですよ。真木野さんは真面目ですね」


(・・・2回目だ)


冨士原さんが笑ったの。

冨士原さんに出会ってから、2年ぐらいは経っている気がするけれど、笑った顔を見たのは2回目。

1回目も、ついさっき、ほんの少しぐらいの笑顔だし。

「すみません。そこまで考え込むとは思わなくて。心配ないですよ。私と真木野さんがあの会社に損害を与えようと悪事を企てていたなら話はまた別ですけどね。何も不正はしてないでしょう。なにも問題ありません」

そう言うと、冨士原さんはまたほんの少しだけ笑顔になった。

・・・これで通算3回目。

多少、口角が上がったくらいの笑みだけど、私はとても驚いていた。


(・・・冨士原さんも笑うんだ。いや、もちろん人間だもん。普通に笑うんだろうけど・・・)
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