猫になんてなれないけれど
今までの、印象になかった顔を見せるから。

なんとなく戸惑っていると、「失礼します」という声とともに仲居さんがやってきて、食事が順に運ばれてきた。

和え物からはじまり、上品な器に盛られたお刺身や、美しい飾り切りを施した華やかな季節野菜の料理が並ぶ。


(美味しそう・・・。本当、ハッピーフラワーさん太っ腹!感謝だね・・・)


「じゃあ・・・とりあえずいただきましょうか」

「はい」

二人で気持ちを切り替えて、「いただきます」の挨拶をして、テーブルに並んだ料理を一品一品味わっていく。

美味しい、これも美味しい、と嬉しい気持ちで料理を口の中に運んでいると、ふと、冨士原さんの視線に気づいてはっとする。


(・・・なんだろう)


私は一旦箸を置き、おしぼりで口を拭ってから、緊張しながら問いかけた。

「あの、なにか」

「ああ・・・いえ、すみません。真木野さん、随分、旨そうに食べるんだなと思って」


(・・・え?そんなに?)


もしかして、大口開けて食べていたかな。上品な料理なのに、ガツガツと食べていたのかも。

普通に食べていたつもりだけれど、自分の振る舞いが不安になった。

「・・・そんなに、美味しそうでしたか」

「ええ。少し、意外です」

・・・4回目。

冨士原さんの笑顔が見えた。また、ほんの少し、フッと笑うくらいだけれど。

でも・・・「意外」っていうのはどういう意味だ?
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